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住まいを取り巻く最近の話題(第4回)

未来の不動産市場: 高齢化

日本大学スポーツ科学部教授・マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員
清水千弘

高齢化と住宅市場

 高齢化が進展していくと,住宅市場にどのような影響をもたらしていくのでしょうか。ハーバード大学のマンキュー教授は,少子化が進む米国社会に警鐘を鳴らすために,少子化または高齢化の進展が住宅価格の暴落をもたらすという「アセットメルトダウン仮説」を示しました。その予測では,1980年代後半から,25年をかけて,実質ベースで米国の住宅価格が47%下落するといったことを予測したのです。マンキューらの研究では,年齢別に住宅需要を推計した結果,50歳くらいをピークとして一人当たりの住宅需要が減少に転じていくために,人口が変わらなかったとしても,高齢化が進展するだけで住宅需要が低下してしまい,住宅価格が暴落するという予測をしたのです。
 このモデルには。たくさんの批判が出てきました。その批判の中心は,住宅需要が低下するということが既に分かっているのであれば,住宅供給を低下させていくために,ストックが調整されるために某セクが起こることはないといった反論です。
 マンキューらが行った年齢別の住宅需要の推計をしてみると,日本では異なった傾向が見て取れます。筆者らの研究では,日本では住み替えが行われないので,高齢化して家族規模が小さくなったとしても,そのまま住み続けていくために,一人当たりの住宅需要は加齢とともに上昇していくのです。そうであれば,高齢化が進んだとしても,日本では「アセットメルトダウン」は起こらないということになります。
 ここに,新しい研究が出てきました。私たちは,現役時代にお金を稼ぎ,そのお金は現在の消費と,将来(高齢世代となったとき)のための貯蓄(資産形成)に充てています。社会保障が未整備のままで長寿命化が進む社会では,定年退職後の老齢期に備えて,現在の消費を節約するように行動します。そうすると,高齢化が進む社会では,経済全体での消費水準は低下させてしまいます。今の住宅への投資も節約するように行動してしまうのです。また,高齢者は現役世代に様々な形で依存してしまいますから,高齢者の増加は経済全体の活力を低下させてしまうのです。
筆者らの予測では,2010年を基準とすれば,2040年には日本全体で住宅の価格は三分の一まで低下してしまうという予測が出ています。

小規模化する世帯

 高齢化の進展と併せて,住宅市場に現れる問題としては,世帯の小規模化が進むことで,住宅の密度は低下していくということです。米国では,1960年の世帯平均世帯人口は3.29人だったのですが,それが2010年には2.58人まで低下していきました。そして,今後数十年間は,2.45〜2.55の間で安定的に推移していくと予測されています(Zeng (2013))。労働人口に対する高齢者人口の比率は2010年59%から2050年には74%まで上昇していくことも予見されています。さらに,女性の労働参加など総労働時間が増加し,仕事へ容易にアクセスできる住宅へのニーズがますます高くなっていくとも予想されています。
 日本ではいかがでしょうか。日本では,高齢化が進む中で,単身高齢者が急速に増加していくことが予測されています。その中で,従来と同じように住宅の住み替えは進まないとすれば,住宅の密度は低下していくと言えます。つまり,一人で大きな家に住むということですから,面積ベースでみれば人口の減少ほどに住宅需要は低下しないことになります。
 労働人口に対する高齢者人口の比率は,米国が平均で2050年に74%を迎えるという状況に対して,2010年ですでに首都圏の自治体ですらその水準に達しているものも一定数あり,2030年ではほとんどの自治体でその水準に達しています。ちなみに夕張市が財政破たんをしたのは,労働人口に対する高齢者比率が90%に達した時でした。千葉県の房総地位的の自治体などは2030年に90%を超える自治体が二桁レベルになっています。
 また,女性の社会進出は,働き方改革の進展によって,一層進むと予想されるため,米国と同様に,仕事に容易にアクセスできる住宅が好まれる傾向は短期的には続くものと考えられるでしょう。しかし,在宅勤務,テレワークなどの進展が,その傾向をどの程度緩和させるのかといった視点もあります。
 加えて,高齢化が進むということは,仕事へのアクセスにこだわらない世帯が増加していくという意味をも持ちます。それらの世帯がどのように選択していくのかは,これから中止しなければならないものと考えます。

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