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経済学からみた不動産市場(第6回)

私たちにはモラルはあります!!合理的なだけ

日本大学経済学部教授
浅田義久

 今回は,モラルハザードと逆選択(アドバースセレクション)についてお話しします。
 どうして,モラルハザードが日本語訳を使わず,逆選択は英語を使わないのかは知りませんが・・。一般的に,モラルハザードは”倫理の欠如”といわれ,何だか人間性の問題であるように扱われています。この後,説明するように,別に悪いことをしているわけではありません。そこで,モラルハザードと逆選択を,不動産市場を例に説明していきます。

 モラルハザードも逆選択も,このコラムで何度もお話ししている,情報の非対称性によって生じるものです。
 まず,賃貸住宅でモラルハザードを考えてみましょう。ここで,何に関する情報かというと借家人の質です。賃貸住宅の供給者となる大家さんは借家人がどの程度部屋をきれいに使うか分かっていません。対して,借家人は自分がどの程度汚く使うかは分かっているはずです。さて,大家さんはきれいに使う人には8万円/月の家賃を,汚く使う人には10万円/月で貸したいと思っているとします。周りをきれいにする費用とかモニターする費用を考えているわけです。ここで,世の中にきれいに使う人と汚く使う人が半々だとして,大家さんが危険中立的(これもどこかで説明します)であれば,家賃は9万円/月にするはずです。さて,この状況で入居したきれいに使う人と,汚く使う人はどのように行動するでしょうか。情報の非対称性がない場合は,きれいに使う人は8万円/月の家賃で良かったのに,情報の非対称性があると9万円/月になっています.当初,きれいに使いたいと思っている人も,実は賃料には汚く使う人の修繕費等が入っているということが分かり,9万円/月分の使い方をするでしょう。これがモラルハザードと呼ばれていますが,これきれいに使う人のモラルがなくなったんでしょうか?合理的な行動しただけですよね。汚く使う人のために修繕費を払うのが倫理というんでしょうか?

 このように,契約後に契約者の行動が事前と変わることをモラルハザードといいます。さて,このようなモラルハザードが起こるとどうなるでしょうか?
上記のように,きれいに使いたいと思っていた人はすでにやや汚く使い始め,そのような人には大家さんは9万円/月の家賃で貸そうとするでしょう。そうすると,情報の非対称性があると,汚く使う人への家賃10万円/月との平均9.5万円/月で貸しだそうとします。もう,お気づきですよね。これを続けると,きれいに使う人が居なくなります。これが逆選択(アドバースセレクション)といいます。ここでは汚く使う人の上限を決めていましたが,これをもっと上にすると最終的には賃貸住宅市場がなくなる可能性もあります。
このようなモラルハザードは長期に賃借する人に多いと考えられ,大家さんは短期的に出て行く人を対象にしたくなります。そのため,日本の借家は狭い学生や単身者向けが多くなってしまっています。
一般的に,モラルハザードは健康保険などの加入者で健康保険に入っているから安心して飲み過ぎるという行動をとってしまうと考えられていますが,上記のように合理的な行動を仮定しても起きてしまいます。
モラルハザードに対して,大家さんはスクリーニングを用いて,きれいに使う人はシグナリングを用いて対応しています。
例えば,定期借家や法人限定,女性限定といった物件です。今から30年ほど前に浅田義久という無名の経済学者が法人限定や女性限定の物件は同じ質であれば賃料が安いことを明らかにしています。でも,女性が部屋をきれいに使うってのは,誰も実証していません。息子の部屋と娘の部屋をみると・・・・。
賃貸住宅以外にも中古住宅市場でも同じように,逆選択が発生します。中古市場の場合は,売り手は住宅の質を知っていて,買い手は住宅の質を知りません。そこで,質の良い住宅は市場に出なくなってしまいます。これが中古住宅市場の逆選択です。これに対して瑕疵担保責任制度などで対応しようとしていますが,これがなかなか難しい。

 さて,こうみると,質を明らかにする,あるいは質を担保する制度の確立が非常に重要になります。
ところで,以前恋愛市場でも情報の非対称性が問題であることを指摘しましたが,モラルハザードがあるとするといい男,いい女が居なくなる!!やはりタスは不動産市場だけではなく,恋愛市場にも進出すべきでは。

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