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住まいを取り巻く最近の話題(第6回)

人口動態と住宅取得能力: パリの住宅市場

日本大学スポーツ科学部教授・マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員
清水千弘

建築統制

 フランスをはじめとする欧州各国もまた,日本と同様に高齢化の問題に直面しています。また,日本や米国と同じように,国全体では高齢化が進んでいますが,バリを中心とした大都市に人々が集まり,地方都市での高齢化,人口減少,空き家の増加は深刻な問題になってきています。
パリの住宅は,中心部では集合住宅が一般的です。多くの建物が100年以上の歴史を持ちます。日本では,建築後年数が,住宅の価値を決定する際に重要な要因になるわけですが,長い歴史を持つ欧州の都市では,住宅の年齢を数える際に,「何年(year)」という単位ではなく,「何世紀(century)」生まれという単位で数えるのが一般的です。私は,よく講義で,日本をはじめとするアジアでは建物の年齢を「年(year)」)で数えるが,米国ではせいぜい「10年(decade)」で数え,欧州では「世紀(century)」で数えると教えます。
 

 パリの街の特徴は,強い開発規制があるために超高層の建物がないということです。写真は,モンマルトルの丘から見たパリの風景ですが,高い建物がないことがわかります。欧州の国々では,都市の街並みや住宅の建設には強い規制があるのです。その意味では,経済学の言葉で言うと,強い供給制約があると言えます。強い供給制約とは,不動産の価格や家賃が上昇してくると,個人も企業も建設すれば儲かるわけですから,家を作ろうとします。しかし,自由な意思で家を建てることができなければ,住宅の数は一定にとどまることとなります。このような状況を,強い供給制約があるというのです。
 このような強い供給制約があるところに,高齢化が進む地方からの移住者や移民が増えてしまえば,住宅の価格や家賃が一気に上昇してしまうということは容易に想像ができることでしょう。そのような中で発生するのが,所得が増加しない限り,住宅取得能力が低下してしまうということです。住宅費が高騰することで,初速が増加しない限り家計を圧迫してしまうのです。このような現象もまた,米国の大都市が直面している問題と同じであると言えます。

家賃規制と住居費規制

 住宅の費用が高騰する中で,パリでは2つの強い規制が与えられています。正確にはあったといった方が正確でしょう。パリ政府は,家賃が高騰する中で,家賃規制を実施しました。しかし,家賃規制は,経済学の教科書でも紹介される,最も典型的な市場の効率性を阻害する政策の一つとして経済学者は考えています。
 まず家賃規制を実施し,その規制家賃水準が均衡家賃よりも低い水準にあるときには,市場のストックの不足をもたらします。短期的には,住宅のストックは一定ですから,左側の図のような状態となります。均衡家賃よりも規制家賃が低くなるわけですから,需要が超過してしまい,一定の不足が生じます。それが長期になってくると,そのような安い家賃では採算が取れないと考える人たちが増加してくることで,下の図のように不足する量がどんどん大きくなっていってしまうのです。

図. 家賃規制の影響

 そのような中で,パリ政府は昨年に家賃規制を撤廃しました。教科書通りの混乱が出てしまったのです。その結果として,近年に抑えられていた家賃を市場家賃へと改訂されるように動いたため,一時的な家賃の高騰が生まれてしまっているのです。
 さらに大きな問題は,年収に対する家賃負担の上限規制があるということです。パリでは,家賃負担が年収の30%を超えてはならないという規制があります。それは,いくら資産があったとしても,フローで年収の30%を上限とするという規制があるわけですから,高齢者になってくると購入せざるを得ないという状況に追い込まれていくわけです。
 いかなる規制も,様々な社会・市場へのひずみをもたらすものです。

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