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人口動態と住宅取得能力:コペンハーゲン

-住まいを取り巻く最近の話題(第9回)-
人口動態と住宅取得能力:コペンハーゲン

清水千弘
日本大学スポーツ科学部教授・マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員

アメニティは人を呼ぶ

 魅力的なアメニティやライフスタイルやレジャーが,クリエイティブな人を引き付けるということは,米国だけでなく,世界中のスーパースター都市で見られる現象です。産業がなくても,魅力的なカフェやレストラン,美術館,劇場,ファッションなどのアメニティ,または,健康を維持できるような高度な医療機関があったり,ベビーシッター,カウンセリング,ヨガクラス,魅力的なジョギングコースがあったりすることが,クリエイティブな人材を呼び寄せる大切な要素になってきました。
 1998年には,ハーバード大学のグレーザー(Glaeser E. L.)は,「都市は死にゆくのか (Are cities dying?)」(Glaeser(1998))という論文を書き,20世紀において全世界的に都市化が進んだことを指摘しつつ,今後の都市化のあり方については,都市に集まることの便益が費用を上回るかどうかが左右するということを指摘しました。むしろ,都市の便益よりも費用の方が大きいために,都市は死に行くのではないかと予想していたのです。しかし,その後,彼自身が否定しているように,都市の便益が公害や交通混雑などの都市の費用を上回ることを指摘したのです。その便益がアメニティの存在なのです。
グレイザーは,都市にはかつては犯罪がはびこり,環境を悪化させ,交通混雑などの費用が大きかったことを指摘していたものの,「それはもう当てはまらないものになった。(米国では)1990年代までには,都市は多くの人々が好むような都市はアメニティ・魅力を提供するものになった。」としています。さらに,「あなた方の仕事と屋外での生活との間の連続した接続が多く見られるに伴い,都市において暮らすということが自然になっている。もし全ての人がどこかから来てすぐにいなくなるのであれば,そうした連続した接続が困難になる」と述べています(Glaeser(2015))。

サードプレイス

 米国では,都市における生活においては,家庭(First place),職場(Second place),そして,カフェや滞留空間などのサードプレイス(Third place)が必要であるとする議論が行われています。「サードプレイス」の概念は,都市社会学者であるオルデンバーグ(Oldenburg, L)が紹介したとされていますが,オルデンバーグは,サードプレイスが都市のコミュニティと社会生活において重要であり,酒場・カフェ・総合商品店や他のサードプレイスが地域の民主主義やコミュニティの活性化につながると解いています。
北欧の代表的な都市であるコペンハーゲンは,世界でも最もサードプレイスの多い街の一つです。街の至る所にカフェや酒場があり,多くの人がその場所で時間を過ごしています。そして,そのことがさらに人々を引き付け,都市の集積と成長をもたらしていると言えるでしょう。写真は,古い工場をリノベーションして作られたカフェです。
 このように古い建物をその時々の空間の需要に応じて修正していき,第三の場所としての機能を最大限まで生かすような街づくりが街の至る所で見ることができるのは,この街の魅力の一つではないでしょうか。

交通ネットワーク

 都市や集積を成り立たせているのは交通です。必然的に都市や集積を形づくる力の見方が変われば,交通やそれを支えるインフラのあり方も見方を変えていかなければなりません。
例えば,都市内のインフラの面では,このようなアメニティ・魅力が多くの人にとってアクセスしやすいように交通手段としてのインフラを整えることや,公園・広場・公共施設など空間・点としてのインフラが自らその魅力を最大化することが重要となります。
雇用や生産力を支えるため,就業人口や現況の交通量などから割り出された整備の定型的な水準や仕様を重視するよりもむしろ,人々のニーズを踏まえた都市の魅力のあり方を考える必要があります。
 そのような中で,コペンハーゲンは,そもそもが小さな街ではあるのですが,徒歩と自転車を中心とした街づくりが進められてきました。街中に,自転車が縦横無尽に走り回っています。家庭,職場,サードプレイス,またはアメニティを自転車という交通ネットワークが結びつけることで,コペンハーゲンという街の魅力を高めているといっても過言ではありません。
都市をどのように設計し,それぞれの空間を創出し,それぞれをどのような交通機関で結び付けていけば魅力的な都市になっていくのかということは,すべてを同時に考えていかなければならないのです。

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