国はどこまで,何に市場に介入する?

経済学から見た不動産市場(第19回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


前回,税金と補助金の話をしましたので,今回はその延長で前々回にちょっと触れた公共財から政府の役割に関してお話ししていきましょう。ようは他人に頼るなってことですが。


前々回お話ししたように公共財は排除可能性と非競合性で定義します。前々回は公共財の定義だけだったのですが,その他の財の定義もここで説明します。

排除性と競合性があるものを私的財といい,これは後述のように市場に任せておいても資源配分は最適になります。排除性が無く競合性があるものは共有資源といって,公共財の供給より問題が大きい。

最近,問題になっている海の魚なんかこれにあたります。海の魚を捕ることを排除することには大きな費用を要しますので,排除性が無いといえます。ところが,ある魚を捕ると,他の人はその魚を捕ることができません。すると,乱獲合戦が始まります。これを”共有地の悲劇”といいます。どこかで不動産に関する”共有地の悲劇”のお話しをしましょう。

最後に,排除性が強く,競合性が弱いクラブ財というのがあります。これは,利用者を限定できるので,競合しないというものですが,私が入っているスポーツクラブでは日によってですが,ランニングマシンに混雑が発生しますので・・・。クラブ財の問題も不動産市場で起きていますので,これもどこかでお話しをしましょう。実は,純粋な公共財も前回お話ししたようにそれほど多くないため,政府が供給すべき財も少なくなります。


さてさて,それでは政府ってそんなに必要では無いってことになるんですが,どうでしょうか。

政府の役割には市場の効率性向上と公平性の達成があると考えられています。公平性の達成というのは,いわゆる所得再分配です。これに関しては結構難しくて,価値観が入ってきますので,経済学ではあまり関与しないことが多いんです。私の100円とあなたの100円を比べるなんてできません。

この公平性の達成のための所得再分配があるのですが,これは国民の投票によって選んだ国会議員による議論によって行われた政策ですから,国民の意見が反映されているはずです。まあ,投票によって最適な政策が達成されるかというのも問題があります。これも,どこかでやりましょう。

話を戻すと,公平性の達成のための所得再分配政策が本当に公平性を達成できているかもかなり疑問で,不動産市場でも以前相続税に関して記しましたが,その他住宅政策でもかなり疑問が残ります。例えば,公営住宅も所得再分配政策といわれていますが,公営住宅に住んでいる人の所得分布は民間賃貸住宅に住んでいる人々の所得分布とあまりかわりません。 


次に,経済学が最も重視する(少なくとも私が重視する)市場の効率性に関してです。

市場の効率性というとまた嫌がられるのですが,市場の効率性というのは,人々の満足(総余剰といいます)が最大になっていることです。市場の効率性や成長率,利潤最大化などは経済学を学んでいない人にとってはかなり嫌悪感をもたれるのですが,満足度を上げるということを嫌がる人はいないと思います。


さて,市場に任せておくと資源配分が最適(効率的)になるというのは完全競争市場だけで,こんな市場はほとんど見られません。よく,経済学者は市場に任せておけば良いと思っていると言われますが,少なくとも私はそんなことを思っていません。

市場の効率性を阻害する要因は,上記の公共財以外では,情報の非対称性,外部性,規模の経済などがあり,これらは不動産市場で多くみられますので,不動産市場では政府の介入がある程度必要になります。情報の非対称性は以前にお話ししましたが,これも国が直接介入する必要はあまりありません。民間企業によって可能なことは市場に任せた方が効率的なものもあります。外部性も規制など直接介入では無く課税や,補助金などで民間のインセンティブを利用した方が効率的なものが多いと思います。規模の経済等も今後お話ししていきます。


さて,日本では,今後の少子高齢化,生産年齢人口の減少が予想されていますので,政府はより効率的・効果的な財政支出のあり方を求められています。

ところが,社会保障費の増加によって公共投資は抑制されています。前回お話ししたように,年金や介護,幼稚園から大学までの教育は公共財ではありません。ところが,消費税率の引き上げによる税収増加はこれら社会保障費に回すということになっています。

その結果,社会資本ストックは老朽化し,2006年をピークに減価しています。防災投資は2011年以降再び増加していますが,本来の公共財である社会資本ストックを下げていくと生産性や人々の効用も低下するはずです。


チャーチルが「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」と言ったそうですが,私も民主主義には反対しませんので,政府が決めたことは守っています。

しかし,経済学的にみると問題が多いのが現状です。もっと,専門家の意見を聞いて欲しいのですが,専門家って難しいことが良いことだって思っている人が多くて。

その点,ノーベル化学賞を受賞された吉野先生は非常に簡単におはなしして頂ける方ですね。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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