経済学的な分析とは?

経済学から見た不動産市場(第1回)

浅田義久
日本大学経済学部教授


今月からコラムを書くことになりました。経済学的な視点から不動産市場を中心にコラムを書くという仕事を頂いたのですが,読者は社会人で不動産に興味がある方々だと思いますので,短時間で経済学的思考を得られるよう面白いコラムにしたいと思います。


私はNHKEテレでオイコノミアという番組に10数回出演していました。

お笑い芸人(現在,作家?)の又吉さんと大阪大学の大竹教授など14人の経済学者が様々なことを経済学的に考える番組でした。残念ながら昨年度で終了しましたが,私は,その中で自動車や町の開発,コンビニなど都市に関わるトピックで参加してきました。登場した経済学者の中で,私が最も高齢(今年で還暦)で,おそらく,従来型の新古典派経済学で分析している化石の一人なのではないでしょうか。


では,行動経済学を初めてとする最近の経済学と新古典派経済学では不動産市場の分析の仕方がどのように違うかを明示しながら,経済学的な分析とは何かを,簡単にお話ししましょう。

40年ほど前に私が学んだ新古典派経済学の大きな前提は,人間は合理的な行動をするというものです。朝起きるのも,勉強するのも,恋愛するのも,就職するのも,結婚するのも,全てその効用(満足度と考えてください)と費用を考えて,効用が高いとその行動を取り,費用の方が高いとその行動は取らないということになります。

例えば,結婚する効用が結婚する費用(機会費用と言います。追ってお話しします。)より高ければ結婚しますが,低ければ結婚しないということになります。結婚の効用って様々ありどこかでお話しするかもしれませんが,ここでは結婚する費用を考えてみましょう。


近年,結婚率が下がっているといわれていますが,実は恋愛結婚の比率は徐々に上がっています。下がっているのは見合い結婚の比率です。別に,最近の若者が草食系と言うことではないようです。

では,どうして,見合い結婚が減ったかを考えましょう。

結婚市場は,住宅市場と同じように情報の非対称性が大きい市場です。経済学で最適になるのは完全競争市場だけで有り,完全競争市場では質に関する情報が完全であることが要件になります。


例えば,コーラの味を知っていなければあの黒い水分に120円支払いますか?ナマコはどうですか?我々はコーラの味やナマコの味を知っているからあの価格で購入します。

住宅は,供給者側は質を分かっていますが,需要者は質を知ることに大きな費用がかかります。そのため,中古住宅市場が脆弱になります(この点もどこかでお話しします)。

普通,異性(同性でも)とつきあおうと思っても,どういう人かなかなか分かりません。特に,だいたいは良いカッコしがちなので,情報の非対称性が非常に大きくなります。すると,恋愛市場,結婚市場は最適な水準になりません。

以前は,結婚市場で見合い結婚をさせるお節介な人々が居て,彼ら(彼女ら?)が質をある程度保証していたのでリスクアバーター(これもどこかでお話しします)な人も結婚できていたのです。最近は仲介サイトが出てきましたが,質を保証しているかが問題です。米国では恋愛仲介サイトの市場が大きく,仲介サイトで結婚した夫婦の方が恋愛結婚より離婚率が低いという研究も出ています。

このように,新古典派経済学では,人間は合理的に行動し,情報の非対称性や外部性(これもどこかでお話しします)によって最適な市場になっていないと説明しようとします。


対して,行動経済学では合理的に行動しないことも認めています。これも追って説明しますが,賃貸住宅市場でも売買市場でも契約形態によって住宅の成約価格が違うことが明らかになっています。行動経済学ではアンカリング(これも追って説明します)等で説明します。その結果,ナッジという方法で解を変える可能性も考えています。例えば,男性用の小便器に的を描いておくと汚さないという実験結果もあります。

まあ,上記のような事象でも新古典派経済学ではコストによって説明しようとします。価格に関する情報を集めるコストが高いと,成約価格にばらつきが出ても良いと考えるのです。


って,ことを一生懸命考えるのが経済学者です。

今後は,不動産市場を始めとして面白そうな話題を皆様に楽しんでもらいたいと思っています。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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