情報の非対称性はあちこちで発生しています

経済学から見た不動産市場(第3回)

浅田義久
日本大学経済学部教授


1回目のコラムでも取り上げましたが,不動産市場では『情報の非対称性』という現象が問題になります。今日は,この情報の非対称性について考えていきましょう。


情報の非対称性は実はほとんどの市場で問題になります。大学の初年度に学ぶ完全競争市場というのは実際の社会ではほとんど存在せず,市場に任せておいても資源配分が最適にはなりません(効率的ではないと言うこと)。

市場に任せておいても良いという完全競争市場の一つの条件が,取引される財(商品)の質に関する情報を消費者と生産者がおなじだけ持っているというものです。


例えば,コーラ市場を考えましょう。消費者はコーラの味を知らず,黒い液体に対して支払い意思額が20円だったとします。

すると,生産コストが100円なら市場ではコーラが売られないことになります。コーラの味を知ったら支払い意思額が100円になるとすると,味の情報が対象(消費者も生産者も同じように知っている)なら市場でコーラが売買されますが,消費者が分からなければ市場ではコーラが売買されません。

私はナマコも海鞘も大好きですが,味を知らなかったら絶対に口にしないと思います。最初にナマコや海鞘を食べた人は酒飲みの救世主ですね。


さて,不動産市場に戻すと,不動産市場で問題になるとは主に中古住宅市場と賃貸住宅市場です。

まず,中古住宅市場に関してお話しします。中古住宅では売り手は住宅の質に関する情報を多く持っています。床が傾いているとか,隣人が夜奇声を上げるとか・・・。しかし,買い手はその情報を知りません。

すると,上記のコーラの市場とおなじで,買い手は床が傾いているという可能性を考えて,支払い意思額を低く提示します。

それを防ぐために品確法や瑕疵担保責任制度などを設定しています。それでも,リスクアバーター(危険回避者)は支払い意思額を低くしてしまいますし,プロスペクト理論(これは追って,お話しします)から売り手は高く価格を設定する傾向もあり,税制上新築住宅を優遇しているので,一層中古住宅の売買が少なくなります。

その結果,住宅を売る場合には建物を壊して更地で売買する誘因になります。これは環境にも良くないので,住宅の質をあきらかにし,住宅価格を正確に査定する企業が必要になります。


さて,次に賃貸住宅市場です。賃貸住宅では賃借人の質に関する情報の非対称性が問題になります。賃借人は自分がどのように部屋を使うか分かっていますが,大家さんには分かりません。深夜に酔っ払って騒々しく帰宅し,明朝はゴミを汚く出す人か(学生時代の大家さん,ごめんなさい),8時に外出して,17時には帰宅,おとなしく,部屋もきれいに使う人かは大家さんには分かりません。

すると,大家さんは前者の可能性もあると考えて家賃を高めに設定するはずです。すると,きれいにする人にとっては家賃が高いのでそのような部屋には住みません。あるいは,馬鹿馬鹿しいので部屋を汚く使う可能性もあります。

これらは経済学で言うモラルハザードと逆選択という問題です(追って,この話題も取り上げます)。大家さんも賃借人の質で市場を分割するように法人限定や女性限定という方法をとります。

しかし,本当に女性が部屋をきれいに使うんでしょうか?賃貸住宅の情報の非対称性に対しても,借家法(定期借家法も含め)などの対策を採っていますが,不動産仲介業が最適化すべきなのかもしれません。


この情報の非対称性は様々なところで問題を起こしています。

例えば,大学教育では,受験者は大学の質に関する情報を正確に分かりませんし,大学は受験者の質(勉強するのか,遊ぶのか)が分かりませんので最適な状態になっていません。就職市場もおなじですよね。


さて,私が心配する情報の非対称性の問題が大きい市場は恋愛,結婚市場です。

皆さんもおわかりでしょうが,自分の質は自分ではよく分かっています。どれだけ酒好きで,仕事嫌いで,入浴が嫌いで,出不精かは分かっていますが,それを開示すると相手がいなくなるので,適度に酒を飲み,仕事をして将来性があり,清潔で,貴方となら外出は大好きですと見せかけるはずです(これは私ではありません)。当然,女性方もそうしますから,恋愛市場,結婚市場はかなり過少になるはずです。

昔は,この情報の非対称性を補う制度としてお見合いがあり,お節介な人が情報の非対称性を少なくし,質を保証していたのです。

ところが,このお節介な人が少なくなって結婚率が減っています。恋愛結婚の比率は私(6月1日に還暦を迎えました)の頃とは変わっていません。結婚願望が減ったかは分かりませんが,お節介な人が減ったのは確かなようです。

米国では恋愛紹介サイトが大きな役割を占めており,恋愛紹介サイトで結婚した夫婦は恋愛結婚した夫婦より離婚率が低いという研究結果も出ています。

(株)タスも恋愛紹介や生涯所得推計,健康推計事業に進出しては。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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