人口動態と住宅取得能力:ロンドンの住宅市場

住まいを取り巻く最近の話題(第7回)

清水千弘
日本大学スポーツ科学部教授・マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員

もくじ[非表示]

  1. 1.建築統制と空き家
  2. 2.アメニティが住宅価格を押し上げる


建築統制と空き家

フランスと並んで,イギリスもまた強い開発規制がある。

開発許可(Planning permission)と呼ばれる開発許可が下りることはとても難しいため,古い建物を維持・修繕・メンテナンスしながら使い続けるという文化が一般的です。

そのような中でロンドンには強い住宅需要が発生し続けているわけですから,住宅価格も家賃も上昇し続けているのです。そして,パリのような家賃規制も年収に対する上限規制もないわけですから,もともとのロンドン市民が郊外へと追いやられ,ロンドンの中に住むことがどんどんできなくなっているのです。

そのような中で,日本でいう統計局に該当するOffice for National Statistics(ONS)はニューポートというロンドンから特急で2時間くらいかかる街に移転したり,民間企業も本社をロンドン郊外へと移したりするところが出てきています。

ロンドンの典型的な住宅もまたアパートです。ロンドンでは,古くから強い高さ規制があったため,写真のように地下室を作るのが一般的でした。私が若いころにロンドンに行くと,ホテルに泊まることなどできなかったわけですから,地下室のB&Bに泊まっていたことを懐かしく思い出します。


さて,このような人気の街のロンドンでも,近年では空き家が増加してきていると言います。

土地利用規制・建築規制が厳しいロンドンでは,建物を修繕して長く使う「治す力」が育ち,建物の寿命を延命させる技術が発達しました。その中で、建物同士の空間的な調和がはかられていくことで,美しい街並みは作られてきました。容易に景観を維持することが可能だったわけですが,そのような強い規制の下では,ゆっくりとした変化しかできない都市は,街並みを維持することができても一方的に老いていくしかありません。

友人のロンドン・スクールオブ・エコノミクスのChristian Hilber教授らの2018年の研究では,開発規制が強く,かつては人気の住宅地であった地域でも都市の老いには勝てず,人々が流出することで空き家率が急上昇していることを報告しています。

彼は,もともとスイス・ジャーマンですが,4月に来日した時に彼が言っていたのは,スイスでも強い規制が住宅市場に空き家を増加させるだけでなく,逆に地域の住宅価格を押し下げるような現象も出てきていると言います。

いずれにしても,強い規制は,住宅市場に様々な問題を創り出してしまいます。

近年において,空き家が増加する中で,住宅着工量を規制しようという議論もありますが,その制度設計はとても難しく,その規制の悪い効果が出てきてしまう可能性の方が高いと考えるのが一般的だと言えるでしょう。



アメニティが住宅価格を押し上げる

米国では,産業が集積している街というよりも,魅力的なアメニティやライフスタイルやレジャーを提供する都市を好む傾向が強くなってきています(Glaser, Gyoko and Saiz,(2001), Florida,(2011),(2012))。

シアトル,サンフランシスコ,ニューヨーク,ボストンなど,どの都市もそれぞれ特有のアメニティが集積しています。そのような都市をスーパースターシティとも呼ばれます。

ロンドンもまた,世界を代表するスーパースターシティの一つです。ロンドンには,魅力的なカフェやレストラン,美術館,劇場,ファッション,そして,ハイドパーク,セント・ジェームズ・パークに代表されるような美しい公園があります。



そして,ロンドンは広いようで多くのところを歩いていくこともできます。Workable Cityの代表都市のひとつであると言ってもいいでしょう。

清水 千弘
清水 千弘
日本大学 スポーツ科学部競技スポーツ学科 教授 [経歴]東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退,東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学) 財団法人日本不動産研究所研究員,株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員,麗澤大学経済学部教授,ブリティッシュコロンビア大学客員教授,シンガポール国立大学不動産研究センター教授,キャノングローバル戦略研究所主席研究官,金融庁金融研究所特別研究員等経て,現職 [専門]ビッグデータ解析,不動産経済学
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