持家,借家,それともシェアハウス?

経済学からみた不動産市場(第10回)

浅田義久
日本大学経済学部教授


明けましておめでとうございます。今年も弊コラムをよろしくお願いいたします。


さて,今年2019年10月に消費税が引き上げられるようですが,住宅市場での対策は持家対策が主のようです。

住宅経済を研究していると,よく聞かれるのは持家と借家のどちらが有利ですかという質問です。このように,経済学的にどちらが有利かと問われることが多くあります。経済学者の私と30年近く一緒にいる妻にもスーパーマーケットのSとIのどちらが得かとか,電化製品ではYとBのどちらが得か,コーヒーショップのSとDのどちらが得かなどと,聞かれてしまいます。

ちょっと考えればわかるのですが,スーパーマーケットで,全商品(質が同じだとして)がIよりSが安ければどの消費者もIを選ばないので,Iは廃店します。質が異なる商品を販売しているコーヒーショップではやや難しくなりますが,多様性を求めるSと安さを追求するDでは,消費者の嗜好(経済学的には効用関数)が異なっているとSが得な人とDが得な人がいます。ここでも,すべてのひとにとってSが得ならDは廃店します。

では,多様性と安価さを両立させればと思われますが,これは生産関数の問題があり,両立はなかなかできません。製品差別化がある市場で独占企業はほとんどありません。


さて,持家と借家の選択に話を戻しましょう。

持家か借家を選択するかというのは経済学ではテニュアチョイス(Tenure choice)といいます。テニュアとは資産等の保有権を言いますが,よく使われるのが,労働市場での常勤の権利です。

経済学者以外の専門家でも,日本人は持家が好きだとか,高所得者になると持家を持ちたくなるといった分析がありますが,日本では,戦前は高所得者も借家に住んでいたことはどう説明するのでしょうか。

最近の例では経済が発展するとキャッシュレス社会になるという論も出ていますが,先進国中でもドイツやイタリアはキャッシュレス化が進んでいませんし,韓国やアフリカの発展途上国でキャッシュレス化が進んでいる国が多くあります。国民性とか経済発展という簡単な分析ではだめなんだすね。

このような金融市場の分析は,法と経済学の分野で盛んに行われています。まあ,この連載を読んでいる人ならわかると思いますが,法制度によって人々の行動は変わってくるんですね。

まず,日本の住宅市場におけるテニュアチョイスの特徴をあげておきます。よくいわれていますが,持家比率(全住宅に占める持家の比率)が先進国の中では高いこと。次に,持家の平均床面積は米国を除く先進国の平均とそれほど違いが無いこと。対して,借家の平均面積は先進国の中でもきわめて狭いこと。日本の住宅が”ウサギ小屋”と言われていましたが,借家は狭いのですが,持家はそれほど狭くありません。


では,住宅市場ではどのような法制度によって,テニュアチョイスにどのように影響を与え,上記のような住宅市場になったかを考えていきましょう。

ここでも,前回のコラムで取り上げた住宅の資本コストを用います。テニュアチョイスで問題になるのは借家権がどの程度保護されているかです。

上記の金融市場でも債権者と債務者のどちらがどの程度保護されているかによって金融市場の活性化につながっていることがわかっています。日本の借家法では借家人保護が強く,規模が大きい住宅ほど貸主にとっての資本コストが上昇してしまいます。その結果,大規模な住宅は持ち家になります。

では,全ての規模で持家の資本コストが低くなるように思えますが,持家は大きな固定費用がかかります。住宅を探すサーチコストや借入コスト,引っ越し費用や,将来の転居リスクなどです。これらによって小規模の住宅では持家の資本コストは大きくなります。このような資本コストは家計の所得,家族構成によって異なってきます。

筆者らは過去に実際の取引事例を元に東京都内の住宅の規模別資本コストを推計した,おおよそ50㎡で持家と借家の資本コストが交差することを明らかにしましたが,これに無差別曲線が接するように各家計が選択すると,50㎡近傍の住宅が少なくなることになります。


住宅を選択する際には上記のように持家・借家の選択に加え,新築・中古,戸建・共同の選択も同時に行っています。新築・中古,戸建・共同の選択に関しても上記と同様に法制度をもとに資本コストを計測すれば,何を選択すると得かが分かってきます。ただし,先述のように家計によって資本コストが違いますので,資本コストを明確にすることは非常に重要になってきます。

私は借家に住んでいますが,借家を持っています(人に貸していると言うことです)。これは,様々な制度からみると,その方が得だからです。


さてさて,結婚はテニュアをとったことになります。ずーっと恋人のままでいるか(これが難しいんですけどね),結婚(籍を入れるか)するかのチョイスです。

ここでも法制度が問題になってきます。まず,籍を入れることの便益がどの程度あるか。また,離婚する場合のコストがどの程度なのかなどなど・・。でも,経済学者でも結構・・・・なので,合理的に行動するって難しいのかも。


よいお年をお迎えください。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
CONTACT

不動産に関わる業務のお悩みやご質問など
お気軽にご相談ください!

▼ 導入のご検討に ▼
\ お気軽にご相談ください /

RANKING


MEDIA -メディア掲載-