消費と投資?-みなさん十分に,しかも賢く投資をしていますか?

経済学から見た不動産市場(第11回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


前回は,持借家のテニアチョイスの話をしましたが,持家・借家選択問題でもう一つ問題となる消費か投資かという話をします。


簡単そうですが,消費と投資って結構面倒です。不動産市場になると,案外この消費と投資の意味が分かっていない人が多いようです。

理論的には,消費はその期間(例えば,年,半期,月,日)で効用が増えるために行うことをいいます。投資は,その期間の消費を控えて(効用を下げて),将来の消費のためにとる行動です。将来消費によって効用を上げようとしているのです。で,どの程度の将来の効用なら現在の消費をやめるかを決めるのが割引率といわれるもので,これに関しては追って分かりやすく説明します。

例えば,教育も当たり前ですが投資です。勉強は苦痛(好きな人もいるかもしれませんが,私は大嫌いでしたし,今でも嫌いです)で,当該期間では効用はありません。何年後かに教育投資が実を結び所得が増えて,勉強をしていなかった人より消費が増え効用が増えるわけです。ここで,不確実性や情報の非対称性(どの程度消費を増やすことが出来るか分かりませんよね)とか,割引率によってどの程度勉強するかに影響を与えます。

現在,やたら問題になっている統計的にはちょっと複雑です。

例えば,企業が自動車を購入するときは企業投資になりますが,家計で買うと消費です。上記の例だと自動車は投資ですよね。その年で使い切る人はいないでしょう。服もどうでしょうか?私は学部時代の服をまだ着ています(体型が変わっていないという自慢を込めて)。

国会でもなんだか変な議論をしていますが,GDP(国内総生産)の約6割を占める家計消費の基資料となる家計調査のサンプル数は全国で10,000世帯以下です。国会議員の中には自分たちの政治資金もちゃんと届けていない方もいるのに企業や家計には全数調査をやれってことですかね。そのコストはどう思っているんでしょう。ある程度のサンプル調査で統計的な手法を用いれば,それほど大きな誤差はでません。


さて,住宅を消費と投資に分けるとかなり難しい問題になります。

その期の住宅サービスを享受するとき効用が生じます。なので,その期の住宅サービスは消費になります。持家を持つということは当期の住宅サービスを得ているので消費になりますが,次期からの住宅サービスの享受は投資になります。借家であれば家賃を払うことになりますが,持家の場合は家賃を払っていませんが,GDPでは帰属家賃を払っているとしています。帰属家賃とは,もし市場で貸し出したら得られる家賃です。要するに,自分で自分に家賃を払っていると計算します。そして,この帰属家賃は,2017年度の家計の可処分所得の約14%を占めます。

さて,このように市場で取引されていないのに付加価値を生んでいる財サービスを市場で取引されたら,どのくらいの価格になるか計ることを帰属計算といい,現在は帰属家賃や農家の自家消費がGDPに加算されています。本来,GDPは国内での付加価値を示す指標ですから,本来はこれらに加え,主婦(主夫も)の家事サービスも帰属計算した方が良いといわれています。

例えば,専業主婦が作った晩ご飯はGDPに参入されませんが,これは国内で作られた付加価値ですから入れるべきです。認可保育園の0歳児には月に21万円の補助金がでています。自宅で育児をしている人の帰属育児費は月21万円以上になります。専業主婦の家事サービスを市場で取引すると年間1,200万円に達するという試算もあります。と,だいたいの働き手はヒモってことになりますよね。


話を住宅に戻します。

住宅を持つというのは今期の住宅サービスを享受することに加えて,来期以降のために投資したことになります。来期以降の効用を得るために,今期の消費を抑制したということです。将来の消費を高めたいという投資は別に住宅に投資する必要はありません。一般的には,金融資産の方が楽だと思います。

そして,均衡では金融資産と住宅を含めた実物資産の収益率は等しくなります。なぜなら,もし,金融資産の方が,収益率が高くなれば,人々が金融資産を買おうとして,その結果,金融資産の価格が高くなり,収益率が低下し,実物資産の収益率と等しくなるからです。これを裁定取引と言います。

前回までのコラムに書いていますが,人によって,投資収益は違いますし,割引率も異なってきます。借家に住んで金融資産で運用することが低所得者のすることとは思えません。私は借家に住んで,住宅投資を行い大家さんになっています。


さてさて,またまた,人生への応用です。

家庭サービスという言葉がありますが,これはあたかも,いやいや家族と一緒に時を過ごしているように聞こえます。サービスってのは,相手への効用の供給で,自分はコストを払っているという意味になります。経済学的には,これは投資と考えた方が良いと思います。上記のように消費は現在の効用を上げるもの,投資は将来の効用を上げるために現在の効用を小さくするものです。

で,家族サービスってのは,老後家族が優しく接してくれるという効用を得るために,現在の効用を抑えると考えると投資なんですね。

私は,この投資に成功したようで,結構家族が優しく接してくれている還暦を迎えています。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
CONTACT

不動産に関わる業務のお悩みやご質問など
お気軽にご相談ください!

▼ 導入のご検討に ▼
\ お気軽にご相談ください /

RANKING


MEDIA -メディア掲載-