リスクはお好きですか?-私は歩道橋も嫌い,チキンハートかリスクアバーターか

経済学から見た不動産市場(第14回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


投資をするかどうかは,各人の割引率と危険回避度によって決まってきます。

前々回に時間割引率のお話でしたので,今回は危険回避度をお話ししていきます。これも各人で異なっています。危険回避度は金利の話よりは分かりやすいかもしれません。よく,ハイリスクハイリターンって言いますよね。これですから。


では,危険回避度について,簡単に説明していきます。

2枚に1枚の割合で(50%の確率で)10万円が当たる「スピードくじ」があり,この「スピードくじ」を何万円以下なら買うかという問題を考えます。期待値は5万円なので,5万円で買う人はリスク中立的,5万円以下の人はリスク回避的(リスクアバーター),5万円以上の人はリスク愛好的(リスクラバー)といいます(理論的には期待効用仮説というのを使うのでもう少しややこしい)。

これは,当然人の気質によって違いますし,所得によっても違います。この危険回避度の分析は,貯蓄行動はもちろん,喫煙,肥満,結婚などへの影響も検討されています。

このような人々の危険回避度と人々の行動に関して行動経済学では様々な研究がなされています。

その際には,アンケート等で回答者の危険回避度と行動を分析するのが流行です。日本におけるこの分野の先駆者といえる大阪大学では上記のようなクジや賃金の例をあげて危険回避度を観測することに加えて,降雨確率何%だったら傘を持って行くかを聞いて,危険回避度を観測しています。

直接,数値例を用いて問うのは時間割引率の観測でも用いられて簡単そうですが,計算が面倒なのでかなり誤答が多いのが欠点です。降雨確率は簡単で分かりやすいのですが,私のように面倒なので常にバック(バックパッキングですが)に傘が入っている人は本当にリスクアバーターなのでしょうか?

弊大学も追随者ですが,行動経済学の分野でアンケートを用いています。弊大学でも降雨確率の設問を使ったことがありますが,最近は「コンビニで買ってきたお寿司を冷蔵庫に入れていて,うっかり食べるのを忘れてしまいました.あなたは,消費期限後,最大何時間までなら食べることができますか.」という設問を使っています。

これが以外と綺麗な分布になって危険回避度の観測には適しているようです。あなたは何時間まで食べますか?意外と2日以降でも5%位の人は食べると回答しています。当然,私は一切食べない派(だいたい,10%程度の人々)です。


またまた,教育について応用していきましょう。

みなさんは数学が好きですか。ほとんどの人は”数学嫌い”というのではないでしょうか。これは経済学部で教える身には結構厳しいものがあります。

さて,どうして数学嫌いになるのでしょうか。数学が難しいから?そんなことはありません。これを危険回避度から説明してみましょう。

同じ学生が取れる平均点60点の教科AとBがあるとします。Aは分散が大きく,2回やると80点と40点になるとし,Bは分散が小さく2回やると65点と55点になるとします。ここで,合格点が60点だとすると,皆さんはどちらの科目で受験しますか。

上記から分かるように,危険回避的(リスクアバーター)な人ならBで受験します。

もうお分かりですよね。小学校からの経験で算数,数学の点は個人でも分散が大きくなり,社会科の分散は小さくなります。問題の作り方を考えれば分かりますが,数学は大問が多いので,一つ分からないと大きく点数が落ちてしまいます。社会科は各問題の配点が小さくなるので,どうしても分散は小さくなります。

こうすると,私大の経済学部では数学を選択する学生は少なくなってしまいます。早稲田大学は数学を必修にするようですが,経済学は数学が必要なのに上記のように危険回避的な人は数学を選択しません。弊学部では数学得々入試ってのがあり,数学で受験すると有利にするようになってるんですが,ご存じでしたか?


さて,住宅や都市経済の話に戻しましょう。

住宅や都市経済で問題になるのは災害に対する対策です。日本では地震保険の加入率が低くて問題になっていますが,我々の研究だとリスクアバーターは災害に対して何らかの対応を取っている確率が高いことが分かっています。ただし,問題はより危険回避的なひとは災害が起こりやすい地域には住んでいないという内生性があることに注意する必要があります。

また,これも分析が難しいのですが,日本では災害に対して保険をかけていなくても国からの助成金や義援金が出て,保険より額が大きく,保険をかけるインセンティブを小さくしています。


この危険回避度は人によって異なっているし,当然歳とともに変わってきます。

私は現在ではリスクが高いことはやらないリスクアバーターですが,若い時期はむしろリスクラバーでした。ただ,今は歩道橋も嫌いなんですが,これはリスクアバーターというより単なるチキンハートでしょうね。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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