国って誰,会社って誰,大学って?

経済学から見た不動産市場(第18回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


前回,地方への補助金のことをお話ししましたが,今回はこの補助金と税金について考えていきましょう。何だかよく分からないことが多いので。


さて,前回は何で地方に移住する人の家庭教師代まで補助金を出して良いのでしょうかというものでした。税金や補助金の機能を本当に知っているのでしょうか。

最近,厚生年金保険料のTVでの説明で,厚生年金保険受給額の半分は税金で賄われており,残りの保険料の積立から払われる分の半分は雇用者負担で本人は1/4だからお得だっていわれていました。

まず,企業負担といわれていますが、企業さんって誰でしょうか。社長?株主?経済学では企業さんっていません。組織の経済学などで学ぶのですが,企業は契約の束と考えています。経営者,株主,労働者,取引先など様々なstakeholderとの契約によって成り立っていると考えています。

では,雇用者負担はどこから出ているかというと,当たり前ですが企業の収入です。労働の賃金弾力性を無視すると,雇用者負担を無くした場合,この企業は賃金として労働者に支払うことになります。すると,労働者は所得税がかかりますので,現状の税制では雇用者負担として厚生年金に拠出した方がお得というだけです。雇用者負担を行っている企業は強制貯蓄させているのに対し,中小企業や個人企業者は労働者に任せているということになります。

同じように,大学って人もいませんし,国って人もいません。よく,大学の教授会で「大学は・・・」と質問する教員がいますが,「理事会は・・・」なら良いんですが,大学は上記の会社と同じで教員,事務員,理事,学生,OB・OGなど様々なstakeholderとの契約によって成り立っています。

国も同じで,「国が・・・をやってくれない」という意見がありますが,我々の投票の結果,議会が成立し,その議員が立法し,それに基づいて政策を執行しているのですから。そして,政府が供給するサービスや財も税金か国債によるものであり我々国民の収入から出ています。


さて,次に税金は補助金に関する負担と享受の関係をみていきます。今回の消費税率引き上げに関しても様々いわれていますが・・・消費税(以前もお話ししましたが,日本の消費税は付加価値税に近い)は誰が払っているかということを考えていきましょう。

今,100円で売っていた商品に10円の消費税が課税されたとしましょう(簡単化のために10%ではなく常に10円とします。難しくしても結果は同じ)。このとき,生産者が価格(税込み)を110円として販売したとしましょう。もし,価格を10円上げたのに販売量が変わらない場合は,価格を110円として,その中から10円を納税します。このとき,消費税を100%消費者に転嫁したといいます。消費者負担が10円,生産者負担が0円です。

次に,価格を10円上げたとき販売量が0になったとします(極端ですが,その方が分かりやすいので)。すると,価格を100円にして,その中から10円を納税することになります。このとき,生産者の収入は10円減少し,消費税は生産者が全額負担することになります。これは消費者に転嫁できなかったとして不転嫁命題といいます。

これでわかったと思いますが,消費税の負担は価格を上昇させた場合,消費者がどの程度消費を削減するかにかかっています。これは需要の価格弾力性といいますが,厳密には供給の価格弾力性にも関係してきます。課税や補助金の分析って結構面倒で,需要曲線と供給曲線の価格弾力性を導出する必要があります。

不転嫁命題(生産者が全額負担する)を充たしている例として土地の固定資産税が上げられます。土地に課税したからといって土地以外のものにはできませんから。家屋に固定資産税を課税すると,よりよい建物にするインセンティブが無くなり,他のことに投資する可能性があります。そのため,経済学者は家屋への固定資産税をやめて土地の固定資産税だけにした方が良いと主張しています。

所得税も同じで,所得に課税するのは労働に課税することと同じなので,労働供給を減らす可能性があります。人頭税だと労働に関係しないので適していますが,人頭税って誰も賛成しませんよね。以前,英国のサッチャー政権が人頭税を創設しようとしたんですが,総スカンでした。ただ,日本の住民税の均等割って人頭税ですよね。


難しいことを書いてきましたが,税金の負担も簡単ではありませんし,補助金も同じです。

学生への補助金を最も享受しているのは“大学”かもしれません。奨学金被貸与者は遊興費を多くしているという実証研究がありますから,奨学金は奨遊金になってゲーム業者が享受している可能性もあります。真面目な奨学生もいることは知っていますが,平均的にはかなり不安です。


私もあと何年かで定年なのですが,”国”の教育への補助金を長年(まあ,学校の先生になったのは40歳なのでそれほど長くはありませんが)享受してきたことに感謝しています。今後は厚生年金で感謝することになりますが・・・

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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