地方移住したい?     

経済学から見た不動産市場(第17回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


最近は,山の中にある一軒家や移住を扱ったTV番組が多く見られます。個人的には豪雪(昔は本当に豪雪でした)で苦労した北国から東京にでてきたのであまり羨ましいとは思いませんが,みなさんはどうなんでしょう。


当然ですが,国内での人々の移住は自由ですから,それを妨げてはいけません。しかし,補助金を出してまで地方移住を促進する必要は無いと思います。

日本は三割自治と言われるように,地方自治体の歳入の地方税の割合は3割しかなく,その他は地方交付税交付金や国庫支出金という国税からの歳入です。多くは都市部での所得税と法人税で賄われているとみて良いと思います。

TVをみていて東京から地方への移住者の子弟に,地方での教育では満足できないということで家庭教師のサービスを無料で提供していると言っていました。なぜ,人々の税金で特定の人の家庭教師をつけるのか全く理解できません。


経済学では公共財をちゃんと定義して,公共財の最適供給を考えています。一般的に公共財・サービスは生活で必要なものと考えられているようですが,それではトイレットペーパーや下着も政府が供給しなければいけなくなります。公共財・サービスというのは利用者を排除するのに大きな費用が必要で,誰かが使っても他の人が使えるような財をいいます。これは広辞苑にも出ています。

例えば,混雑していない道路や治安や消防などです。近年問題になっている保育園を含めた教育サービス,水道サービス,介護サービスは公共財・サービスではなく私的財です。当然,家庭教師なんて・・・。私的財を政府が供給する理由はありません。

極端に考えれば,私が離島に移住し,電力,水道,交通,教育を受ける権利があるといって,離島に電力や水道を供給しますか?


次に,人々の移動を考えていきましょう。

世界的に見ても国内移動者比率が高い国は経済成長率も高くなっています。以前,人口増加率と経済成長率が無関係であることはお話ししましたが,1国の人口増加率より,人々が生産性の高い地域に移動して,集積の経済を発揮して経済成長を遂げるようになっています。集積の経済とは一定の地域に多くの人が居た方が生産性や効用が高まるというものです。

それなら東京圏に人々が集まりすぎて東京圏が混雑しすぎると思われるかもしれません。混雑外部性を考慮しないといけませんが,混雑が嫌な人は外に出るはずです。東京都は流入人口率(流入人口/総人口)も最も高いが,流出人口率(流出人口/総人口)も最も高くなっています。全国的に見ても流入人口率が高い都道府県は流出人口率も高く,県内移動率も高く,これらモビリティが高い地域は成長率も高いことが分かっています。東京圏を含む都市圏へ人々が流入すると,地代・地価が上昇し,それに不便を感じる人は地方圏に流出します。

以前にお話ししましたが,日本は東京一極集中ではなく,地方圏にも人口が増加している市も多く多極集中になっているんです。この移動性を高めるためには不動産業が重要だということも分かっています。


さて,この移動ですが,東京圏内でも起こっています。

これは非常に面白いことなのですが,地方圏から女性がどんどん東京圏に来ていますが,結婚すると東京圏の都外に移動しています。高齢者でも意外と高齢者の移動も多いのです。国勢調査でみると,夫婦で夫が先に亡くなった寡婦が都心のマンションに移住している例が多いことも分かっています。女性は社交的で都心に住む効用が高いようです。男性の高齢者は社交によっては幸福になりにくいという研究もあります。


私は未だに東京都内に住んでいますが,これは毎日のように都心に通勤するためです。

当然,退職したら都心に通う必要が無いのでどこかへ引っ越すのでしょうが,退職後に出不精の私の効用と,出かけるのが好きなWIFEの効用を最大にする場所はどこなんでしょうね。難しい。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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