映画館からみる経済学-高齢旦那は辛いよ
経済学から見た不動産市場(第22回)
浅田義久
日本大学経済学部教授
今回は,やや趣を変えて映画館から経済学的考察を行っていきましょう。ただし,映画の内容ではありません。
先日,WIFEとダウントン・アビーを観に行きました。私は刑事物やスパイモノが好きなので所謂「鷲も族」として行動したわけです。
「鷲も族」ってのも重要な検討課題で,国立社会保障・人口問題研究所の福田氏が高齢者の幸福度について分析しています。その結果,男性は仕事,PC利用,子・孫との同居が幸福度を上げ,女性は社会参加によって幸福度が上がるという結果になっています。男性は仕事が無くなると,WIFEに依存して「鷲も族」になりがちですが,女性は社会参加なので旦那さんとは・・・
さて,どこに観に行ったかというとなんと昭島です(自宅は国分寺なので郊外に出たってことになります)。なぜ,昭島か経済学的考察をしてみましょう。
まず,50歳を過ぎると,一部の映画館では「夫婦50割」というのがあります。差別価格の一つですが,一般1,800円の所,夫婦のどちらかが50歳以上なら二人で2,400円になります。
当然,ダウントン・アビーも「夫婦50割」で見ようと思ったのですが,立川の映画館では2019年から「夫婦50割」がなくなり,シニア料金も60歳以上だったのが70歳以上になってしまった。昭島ではこの「夫婦50割」が継続していました。立川から昭島まで一人往復で314円,片道9分かかりますが,高齢者にとって9分の機会費用はたいしたことは無いので昭島に行くでしょう。
差別価格って,消費者によって異なった価格を課金する制度ですが,これは消費者,例えば「夫婦50割」も高齢者のためではありません。企業の収益最大化行動のひとつです。
費用を考慮すると面倒なので限界費用を0(映画館で空いている時間は限界費用0と考えてもいい)とすると,料金を10%低下させたとき,販売量が10%以上増える場合は料金を上げた方が良いということになります(価格弾力性が1以上)。
映画館で考えると,まず立川や府中では限界費用が0にはなっていません。大概は混んでいて,事前に予約していきます。おそらく,立川や府中では高齢者に差別価格を用いると混雑によって非高齢者の入場者を減少させてしまって収益が減少するから差別価格がないのでしょう。せめて,平日の昼だけでも「夫婦50割」を復活させては・・・。
対して,昭島では比較的空いているので「夫婦50割」によって収益があがるんでしょうね。しかも,高齢者から見ると機会費用が安いため上記の314円の交通費と9分の機会費用を入れても昭島に行っちゃうんでしょうね。私たちが行った日は18人の観客が居ましたが明らかに全員「夫婦50割」。
ところで,近年高齢者向けサービスが徐々に縮小され,都立公園の高齢者割引もいつまであるのか不安です。昭和記念公園や都立殿ヶ谷戸庭園(自宅から歩いて10分なのでただならいつでも行きたい)は混雑していないので限界費用は0。高齢者はただで良いのでは。年金は費用が発生するから当然厳しくして良いし,公営バスなんかは,混雑時には限界費用が発生しているから無料パスは時間制にすべきですけどね。
もう一つ,立川の映画館と昭島の映画館の違いは建物の構造です。
新宿や府中,吉祥寺,立川(国分寺に住んでいるので映画はこれらの街でみます)では,映画館は縦に伸びています。例えば,TOHOシネマズ新宿は4フロアーに12のシアターが,TOHOシネマズ府中は3フロアーに9つのシアター,吉祥寺オデヲンは3フロアーに3つのシアター,立川シネマシティは7フロアー(2つの建物)に11のシアターがあります。
ところが,昭島は平屋に近く,同じフロアーに12のシアターが横に並んでいます。これは当たり前ですが,地代の違いを反映していますね。やはり,都心は高層マンション,郊外には戸建ってことです。
ところで,地方の人はビックリするでしょうね。
ちょっと古い統計(2009年)ですが,私の出身地石川県には6軒の映画館しかありませんし,お隣の富山県には2軒しかありません。昔はもっと少なかったですね。それで浪人の時に京都に下宿していて(金沢には予備校もなかった),映画館が多く,映画館通いをしてしまったことを今でも反省しています。