事故物件情報の公開-全てをさらけだしていますか?
経済学から見た不動産市場(第23回)
浅田義久
日本大学経済学部教授
このコラムを読んでいる人は不動産に興味がある人ですから,“大島てる”ってサイトを見たことありますよね。私も結構覗きますが段々充実しています。日本中の殺人,自殺,火災等が起こった住所,部屋番号まで載っています。
このサイトの情報をもとに早稲田大学の定行氏が面白い研究をしています。棟内に他殺事故があると他の住戸の家賃が4%程度低下するそうです。また,7年後にはこの効果がなくなるそうです。
香港のChang an Liの研究によると香港では他殺だと当該物件が46%,自殺だと21%賃料が低下するそうです。香港は運気によっても賃料が変わるということですから,かなりNervousなんでしょうか。
さて,この賃料の低下は何を意味しているのでしょう。
上記の分析はヘドニック・アプローチで行われたもので,あるマンションで他殺事故がおこると,市場家賃が4%落ちるということになります。ただし,これが社会的損失かというとそれが結構面倒くさい。
まず,元々住んでいた住民の支払意思額が4%低下したわけではありません。それ以上支払い意思額が低下したからその部屋は空き部屋になったはずです。そして,4%家賃が低下した時には違った人が住んでいます。この人の支払意思額は実は事故とは関係ないかもしれません。事故物件が起こったことで支払意思額が4%減ったのでは無く,自分の部屋で過去に他殺があっても気にしない人で単に所得が低くて支払意思額が低い人かもしれません。この他殺による外部不経済の計測は非常に難しい。
ただし,ひとつだけこの家賃低下の外部性を被っているのは大家さんです。
もう一つ難しいのは,これは風評被害かという問題です。風評被害とは,実害がないのに実害がある,あるいは実害があるかもしれないということで被害を被ることです。事故物件でも汚くなったり,臭くなったりしていれば実物被害ですが,これらがなければ風評被害でしょうか。ちょっと考えてみましょう。
先日NHKの“食の起源 第4集”でお酒の話をしていましたが,非常に面白い。私は,ここ半世紀ほど奈良漬け状態ですが,ノンアルコールビールやノンアルコールワインでも脳は酔うことができると・・・。脳がビールやワインの味を知っていて,同じ味だとビールやワインと思って酔ってしまうらしい。
すると,事故物件というだけで本当に気持ち悪くなる人がいるかもしれません。これは実害です。それを判定するには,テレビでやっていたように脳波を調べる必要があります。先ほどのノンアルコールビールやノンアルコールワインの件ですが,脳は酔ってるんですよね。すると,これらを飲んだら自動車を運転してはいけないのでは。どうなんですかね。
不動産に関して話を戻すと,この事故物件は重要事項説明で開示義務があります。
ただ,どこまで開示するかが不明瞭なので,よく言われているのが,直前の借家人の事故は開示するというものです。これは,経済学的には情報の非対称性による市場の効率性の阻害を解消するためなんでしょうが,上記のように風評被害と実害を区別可能なんでしょうか。非常に難しい問題です。
さて,あなたは家族や友人,恋人に自分の全てを曝け出していますか?知らぬが仏という言葉もあります。実害がなければ知られたくない過去もあるのでは。