再開発は難しい あなたはいつエアコンを買い換えますか?


経済学からみた不動産市場(第44回)

浅田義久
日本大学経済学部教授

 

 

 以前のコラムで開発の最適時期を判断するのは非常に難しいと記しました。今日は,再開発はいつ行うのが最適かを考えていきましょう。

 再開発は,ある地域のストック(建物等)が古くなって,収益が最大になっていない場合にストックを新しくする投資行為です。ここで難しいのは,再開発投資をするのは当該地域で再開発すると,開発費用より多くの収益があるときのみということです。このときの収益の測り方が難しく,最適な時期どころか,再開発の決定もかなり難しい決断になります。再開発の収益は,以前お話しした集積の経済がどの程度あるかによって決まる部分が多くなります。当該地域の隣接地域で集積の経済があると,その効果が漏出して,当該地域に集積する効果は小さくなります。今後,日本全体の人口が減少し社会保障費が増加する中で,様々な投資はできる限り費用便益分析を行って順番を決めるべきです。しかも,面倒なのは現在のストックの投資費用はすでにサンク(埋没費用)されているということです。サンクコストに関しては,今後のコラムで検討します。

 さて,再開発を行うことが社会にとっても望ましいことが分かったとしても,次に問題となるのが「いつ再開発を行うか」ということです。これは本当に難しい問題です。現状でもある程度の収益がある地域で再開発を行うには,現状での収益を超える再開発による収益が必要になります。再開発によって増える収益に不確実性があるうえ,来年度になると人口が減少し収益が見込めなくなったり,他地域の集積の経済が大きくなるという不確実性もあります。また,次に述べるように再開発にかかる期間を含めた交渉費用も不確定要素です。

 もう一つ厄介なのは「誰が再開発の費用を負担し,その便益をどのように分配するか」です。上記の収益の不確実性を踏まえ,再開発では保留床と権利床と分けていますが,これに関する経済学的な考え方は今後のコラムで検討しましょう。ここでは,交渉の難しさだけ簡単にお話しします。

 Aさん,Bさんの2人の権利者(簡単化のために同じ権利を持つとします)がいるビルを6千万円かけて建て直すと1億円の粗利益が出るとします。単純に考えれば,3千万ずつ負担して5千万円ずつ配分すれば良いと考えることができます。ところが,ここで両者が合意しなければ再開発されませんから,ゲーム論で行動を検討する必要があります。ゲーム論もまたどこかでお話ししますが,簡単な設定として,Aさんはあまり困っていない人で,Bさんは直ぐにでも収益が欲しい人だとします。これを知っているAさんが「6千万円の粗利益がもらえないと合意しない!」と交渉すると,Bさんは4千万円の粗利益でも1千万円の純利益を得ることができるので合意することになります。

 このようなBargaining powerの大きさで利益の配分が決まってきます。ここでは,権利者が二人しか居ないと想定していますが,権利者が多くなると交渉費用が大きくなり,再開発が難しくなります。これらを解消するDeveloperは,本当にすばらしい能力を持っていると思います。

 毎年,我が家では「外壁をいつ塗り直すのか」「古いエアコンをいつ買い換えるか」ということが問題になっています。前者は比較的不確実性が少なく,外見という外部経済を除くと決定はそれほど難しくありません。外部性に関しては,危険な塀を直す際に補助金も出ますので,ある程度最適になる可能性がありますよね。ところが,問題はエアコンです。エアコンは年々性能が向上し,上記での将来収益が年々上昇することになります。現在使っているエアコンによる収益(満足度)と新規投資による集積を比較しなければいけないのですが,本当に不確実性が高くなります。

 我が家には木目調で本体からひもが出て,それがスイッチになっている冷房機(冷房機能だけです)がありますが,皆さん見たことありますか?まあ,部屋自体使っていないんですがね。

 

 

 

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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