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コンパクトって何か ー筋肉質か BMI3度かー


経済学からみた不動産市場(第48回)

浅田義久
日本大学経済学部教授

 

 

 みなさんはコンパクトシティってご存じですよね。最近何かと強調されるSDGsでも持続可能な都市の構造として取り上げられています。

 真面目に言うと,日本では,1990年代から中心市街地が衰退していることが問題になり,2006年に従来のまちづくり3法のうち都市計画法と中心市街地活性化法が改正され,2014年にはコンパクトシティの形成を推進するために都市再生特別措置法が改正,立地適正化計画制度が創設されました。この制度では自治体が立地適正化計画を策定し,居住誘導区域と都市機能誘導区域を設定し,効率的な街作りを行うもので,全国で644都市が立地適正化計画に関する取り組みを行ない,356都市が適正化計画を報告しています(2022年末現在)。この郊外化は欧米でも顕在化しており,コンパクトシティ政策は世界的に進められています(OECD (2012),Compact City Policies: A Comparative Assessment, OECD Green Growth Studies, OECD Publishing.)。

富山市がコンパクトシティの成功例と言われていますが,本当なんでしょうか。私は隣県の石川県出身なのでちょっとやっかみだったんですが。

 このような現象は都市経済学の理論としては昔から分かっています。簡単に言うと就業地は産業の集積の経済によってどんどん集積していきます。この集積の経済は効果の漏出という厄介なことが起こります。例えば,水道橋にラーメン店とカレー店が集中していますが,隣の飯田橋には非常に少なくなります。より広範囲に漏出する金融業の場合,東京に集積が高いので,横浜の金融業の集積は広島より低くなります。

 このように業種によって集積の経済の発揮が異なってきます。マスコミも面白いので調べてみてください。この集積の経済があるとある圏域で集中する地域数は決まってきます。静岡県で浜松市が人口増なのに静岡市は減少,福岡県では福岡市が増加,北九州市が減少というのはこのような集積の経済によって起こってきます。

 さて,下図は石川県の人口転入超過をみたものです。非常に興味深い人口移動となっています。石川県内でも金沢市一極集中となっていますが,金沢市から近隣の白山市,野々市市へ転出超になっています。そして,この金沢都市圏(金沢市へ通勤する地域)へは隣県の富山県からも転入しています。そして,金沢市からの転出は東京への転出が主となっています。面白いのは富山県内では富山市への集中が見られますが,金沢市からの転入は少なく,金沢市,東京都への転出が多いということです。

出所)総務省『令和2年国勢調査』表5より集計

 このようにみると,北陸地方(まだ,福井県は調べていません)では金沢市が就業地の集積が高まり,周辺から人々が集まってきますが,東京で高い賃金を得ることができる人々は東京に転出します。では,なぜ北陸で金沢市だったかはよく分かりません。“神の一撃”と言われていますが,何かの原因で一度就業人口が増加すると集積の経済によってより集積するし,逆に一度減少し始まるとなかなか減少は止まりません。都道府県内でなかなか上位が変化しないのですが,茨城県ではつくば市の人口が水戸市を抜きそうですが,その原因はわかりますよね。政策でも集積地を変えることができるという証左になっています。これが進むと,移動できる人の効用は上がりますが,モビリティの低い人の対しては何らかの対策が必要になります。

 さて,就業地は分かりましたが,どこに住むかという居住地を考えてみましょう。これは面白いことに,交通インフラの整備によってこの就業地の集積地への通勤圏がどんどん広がっていきます。加えて,近年は毎日通勤する必要もなくなったので,実質的な通勤費が落ちて,どんどん郊外化が進みます。下図は金沢市のDID(人口集中地区)地区面積とDID人口密度の変遷です。どんどん金沢市の人口集中地区は広がっていきますが,人口道度は低下しています。これも従来からの都市経済学の理論通りです。前述の世界的にもコンパクトシティの成功例とされている富山市も同様にDID面積は増加しているのに人口密度は低下しています。



 もう一つ,都市圏域を決めるものに周辺地域の農地地代があります。農業地代が上がると都市圏域は小さくなり,農業地代が下がると都市圏域は大きくなります。

農業地代は公表されていませんので,その代理変数として耕地面積当たりの農業産出額の推移を地域別にみたものが,下図です。この農業の生産性は非常に興味深いものになっています。1都3県や東京周辺県(茨城県,栃木県,群馬県,山梨県)はかなり高い水準で推移していますが,北陸3県はどんどん低下しています。東京周辺では住宅地の需要が高いため,農業生産性が高くないと住宅地になってしまいます。対して,北陸ではその需要が低いようです。ここでは出しませんが,耕作面積の減少率は地域別の差異はありません。

これは,単純な農業生産性ではないと考えられます。東京圏では多様性を求める人が多く,同じ野菜や果物でも支払意思額は高くなります。私は食べませんが,立川駅には2,500円もするシャインマスカットのケーキが売られていますが,金沢のルビーロマンのケーキはそれほど高いでしょうか。

 さて,このように考えてくると,就業地はある程度の圏域の中で集積しコンパクト化が進んでいますが,その都市圏では通勤圏が拡大し,人口密度が低下するという非コンパクト(diffuseですかね)化しているようです。なんだか筋肉質に見えて肥満化している不健康な体に見えますね。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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