公共財って何? 花火にどう課金します?
経済学からみた不動産市場(第61回)
浅田義久
日本大学経済学部特任教授
敬老の日に熱海の花火大会を見てきましたが,いくつか驚いたことが。経済学で言う混雑料金ですが,花火大会の日の宿泊料が高い。20分の花火なのに宿泊費が通常料金の1.5倍ほどになっています。某有名ホテルチェーンほどではありませんがね。しかし,それでも満室だからもっと上げても大丈夫なような気がしますが・・・。次に,道路が混みすぎています。花火以外でもインバウンド需要で,バスの乗降に慣れていない人が多く時刻表通りに走っていません。今回は花火の公共財としての供給問題を考えていきます。
経済学では公共財を,財の性質を競合性と排除性という2つの基準で考えています。かなり前に,新聞の公共性(正確には再販制の是非。これ以上は言えません。)を巡る議論が国会でなされ,新聞社の代表の方が新聞は生活に必要で毎日読む公共財だと主張され,対して経済学者は毎日使い生活に必要な財ならトイレットペーパーも公共財ですかと聞いて,新聞社の方に激怒されました。経済学の公共財の定義って“世間の常識”と乖離しているんですね。
競合性はいわゆる共同消費ができるかという基準です。私的財の代表としてコーラを考えると,私があるコーラを飲むと、他の人はそのコーラを飲めなくなります。このような財は競合性を持つといいます。一方,四則演算や景観は,私が使っていても費用をかけずに他の人も利用できます。このような財は非競合性を持ち,共同消費が可能な財とも言います。
次に,排除性ですが,これは簡単です。財の消費者を限定できる場合を排除性がある,限定できない場合を排除性がないといいます。ただし,排除にかかる費用が問題で技術進歩によって変わってきます。
そして、この2つの性格から財・サービスを図 1のように4つに分類します。
図 1 財の種類
花火は私が見ても,他の人も見ることができるし,特定の人に花火を見せることをさせないようにすることができないので,公共財,特に地域限定なので,地方公共財として教えていました。しかし,最近の花火は大規模になりすぎて,地域で大混雑をもたらしてますので,競合性が強くなってきて,排除性が弱い共有資源になってしまっているような気がします。実は,共有資源も最適資源配分が難しい財です。現在問題になっている環境問題はほとんど共有資源です。ただ,面倒なので花火は競合性が少ない公共財として考えていきます。
さて,この公共財の供給ってどのように行えば良いのでしょうか。
ちょっと理論的になって申し訳ないので,図 2で説明していきます。図 2上図のように,競合性がある場合は,1つの財は1人しか消費できませんので,市場の需要曲線は各自の需要曲線を横に足し上げたものになります。そして,市場の需要曲線と限界費用曲線と交わった料金Prで課金し、その際の花火量がXrとなるのが最適です。この市場均衡が最適な効率を達成しているということは,社会的にみてということです。
ところが,花火が混雑していないクラブ財や公共財(図 2下図)であれば、この利用者に対して限界費用を課金すると,市場が効率化されなくなります。混雑がない場合は,ある人が花火をみても,他の人は花火を見ることAさんが花火に100円の便益(価値)があると考え,Bさんが50円の便益を感じているとすると,2人だけの社会では150円の社会的便益になり,ようは花火の社会的限界便益は花火を見る人の社会的限界便益を加えたものになります。つまり,図の非競合財の市場社会的限界便益がこれになります。そして,社会的限界便益と花火の限界費用が一致するところで,花火の量を決めることが社会的に最適になります。これをサムエルソン条件といいます。そして,この花火量Xuを達成させる課金制度は様々考えられますが,この時の限界費用cuを支払意思額の比率で各人に支払わせることがまあまあ妥当と考えられています。これをリンダール・メカニズムといいます。
図 2 花火の課金方法
では,どうやって課金できるでしょうか。まず,花火を見る人それぞれに課金するのは無理です。では,花火で儲かる業者(ホテル,土産店,飲食店等)に花火にいくら払っても良いかを聞くという手がありそうです。さて,あなたが花火によって100万円儲かるとして,それを商店街(花火主催者)に真面目に申告しますか?多分,50万円と申告しても花火の打ち上げ数は変わらないだろうと考えて過少申告しませんか?これがフリーライダー問題で,課金ができない非競合財はなかなか最適な供給ができないんです。
ところが,ここで最適な課金方法が開発利益の還元の応用です。
簡単に言うと,花火が無料で供給されている地域Aと花火が供給されていない地域Bがあるとします。花火以外の条件は同じであるとします。すべての人,業者の効用関数が同じで転居費用が0だとすると,地域Bの人は地域Aの方に転居したくなるので均衡では地域Aの地代が高くなります。この地代差は花火の無料化による効用の差に等しくなります。
要するに,この地代上昇分を商店街(本当は行政ですが)が徴収して花火を上げれば花火市場は効率的になります。
さて,上記は混雑していない場合ですが,実際は私が体験したように道路やホテルは混雑しています。これは,結構難しいのですが,政策割り当て理論に似ていて,一つの目的には一つの対策が必要で,道路混雑には道路混雑料金をホテルの混雑にはこれも混雑料金を徴収し,市は道路拡張に,ホテルも混雑緩和のために増室等を行うのが次善の策になります。
しかし,私たち老人もバスの乗降に時間がかかり他人に費用をかけているから超過的な課金??近頃,キャッシュレス決済が難しくて,加えてポイントもつけてもらおうとすると後ろの人がイライラしているか気にしてしまっています。鉄道から切符がなくなる!!技術に追いつけない。その際は皆さんやさしい目で見て下さい。