適正価格って?

経済学から見た不動産市場(第2回)

浅田義久
日本大学経済学部教授


大阪府の某小学校に対する国有地払い下げで,払い下げ価格が適正価格ではないという指摘がされています。あたかも鑑定価格が適正価格であり,それを大幅に下回った価格で売却されたことに疑惑があると考えているようです。

今月は,この土地の価格について考えていきましょう。


不動産鑑定評価は「土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利の経済価値を判定し、その結果を価額に表示すること」(不動産の鑑定評価に関する法律第2条第1項)ですが,これを適正価格といえるのでしょうか。

ある土地に対する支払い意思額は,人によって異なってきます。

例えば,同じ土地で同じ収益があるとしても,補助金や課税によってその土地に対する支払い意思額は異なってきます。いま,AさんとBさんがいて,補助金を考えず収益から考えるとある土地には同じように5000万円の価値があるとします。

ところが,Aさんにはこの土地を購入すると500万円の補助金を得ることができるが,Bさんには出ないと仮定します。すると,Aさんのこの土地に対する支払い意思額は5500万円になります。ここで,Aさんがこの土地を購入した場合,取引事例としては5500万円になってしまいます。


不動産関連の方や住宅を買った経験がある方ならお分かりになると思いますが,住宅を購入する際には様々な特例があり,住宅ローン減税では10年間で最大500万円の所得税控除を受けることもあり,このような人々の支払い意思額は高くなってしまいます。冒頭に例としてあげた小学校の近隣で公園になった土地もかなりの補助金がでていたことが明らかになっています。

また,地価は将来地代収入の割引現在価値ですから,購入者の期待にも依存します。

当たり前ですが,不動産の取引があるということは,購入者の支払い意思額が売却者の売却希望価格より高いから起こることですから,人によって期待収益が違うことを意味しています。


不動産業者の仲介価格等に関するアンカリングの影響は,またいつかお話ししますが,ここでは補助金や課税についてもう少し詳しくお話しします。

不動産を購入する際には,印紙税,登録免許税,不動産取得税,消費税等が課税され,贈与や相続を受ければ贈与税,相続税も課税されます。また,不動産所有時には所得税,住民税の特例があり,固定資産税,都市計画税,特別土地保有税等も課税されます。売却時も所得税,住民税の特例や譲渡所得税,相続税が課税されます。

これらが土地を保有する際のコスト(資本コストといいます)より土地を持つ収益より高いと判断すれば土地を購入するしコストの方が高いと思えば購入しない方が良いということになります。

上記の税制は毎年のように変更されるため,資本コストも各個人でも,毎年のように変化することになります。政府によって税制の変化を毎年のように行って頂けるので,不動産を売買する人々は大変ですが,私のような研究者はあたかも社会実験をしてもらっていることになるので分析対象が広がって非常にありがたいのです(制度も同じように変わっています)。


さて,話を収益に戻しますが,収益も不確実性やリスク選好によって変わってきますが,用途等によっても異なってきます。

冒頭に例としてあげた土地の用途は小学校ですが,小学校の収益をどのように計算できるのでしょうか。もう一つ問題になった大学の例から見ても,学校は参入規制があり,それだけでも価格は歪められます。

また,当たり前ですが,外部性や周辺の規制によっても価格は変わります。教育の外部性として,進学率が高い地域では犯罪率が低下することが明らかになっています。これは周辺地価を上げる効果があります。逆に,学校の周辺では様々な業種の立地規制が行われます。

これがプラスなのかマイナスなのかは実証してみないと分かりません。小学校用地の価格は取引事例も少なく,検討が非常に難しいのです。このように,様々な立地要因によって地価がどのように決まってくるかを,取引事例を使って統計学を用いて検討するのがヘドニックアプローチです。


(株)タスではこのヘドニックアプローチを用いて地価や家賃を推計しています。賃貸住宅が空室になる要因の分析や,周辺に道路ができたり,区画整理が行われることによる外部経済の価値もこれによって推計できます。

上記の資本コスト分析とヘドニックアプローチは,不動産市場にとって重要な情報を得ることができる可能性があり,これが不動産テックといわれるものです。


このように記すと,私が不動産で非常に儲かっているように思われるかもしれませんが,私は借家に住んでおり,金融市場でも不動市場でも投資は行っていません。非常にリスクアバーター(危険回避者)なので自分でリスクを取るのが嫌なんですね。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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