見張られてて気持ちいいですか?

経済学から見た不動産市場(第5回)

浅田義久
日本大学経済学部教授


不動産市場,特に仲介と,賃貸住宅で効率性を阻害する要因として情報の非対称性(すでに第3回目のコラムでやってますね)に伴うプリンシパル・エージェンシー問題があります。難しそうですが,簡単に説明していきます。これは日常でもよく起こることです。


まず,賃貸住宅で考えてみましょう。

賃貸住宅に投資しているのは大家さんで,投資主体をプリンシパルといいます。対して,住宅を実際に使う人は借家人で,エージェントといいます。ここで,問題は持ち主の大家さんと使い手の借家人で目的が異なり,互いに見張っていないということです。大家さんは貸し出している住宅をきれいに使ってもらおうとしているし,近隣の人に迷惑もかけて欲しくないはずです。

ところが,借家人は契約期間中で自分の満足が最大になるように行動するはずです。すると,借家人は大家さんが思っているほどきれいに使ってくれないし,隣人にも迷惑をかけるような行いをしてしまいます。

そのため,大家さんは汚く使う人がいることを前提に家賃を決めます。また,ここで重要なのは大家さんが常に借家人を見張っていないと借家人が知っていることです。エージェンシーを見張る費用のことをモニタリング費用といいますが,家賃と比較すると高いのでモニターしないことが多いのが現状です。

これがモラルハザードと逆選択という問題です。モラルハザードと逆選択は追ってお話ししますが,上記のように情報の非対称性に伴うプリンシパル・エージェンシー問題がある場合に起きます。ここでは,借家人がどの程度きれいに使うかに関して借家人は分かっているが大家さんは分からないという情報の非対称性と上記のように賃貸住宅の投資主体と利用主体の目的が違うことから起きます。

この,対応策として企業を対象として貸し出す法人限定や女性を対象として貸し出す女性限定という借家があります。後者は,女性がきれいに使う前提になっていますが,本当に女性がきれいに使うかは,息子と娘を持つ私は疑問を持っています。20年ほど前に私は法人限定の借家の家賃は低いことをあきらかにしていますが,これは企業が補償しているということになります。

また,アパートの一階に大家さんが住んでいる例がありますが,これはモニタリング費用を安くして対応する方法です。


次に,不動産仲介ではどのようなプリンシパル・エージェンシー問題が起こっているのか考えていきましょう。

ここでも賃貸住宅の大家さんがプリンシパルになります。ここで,大家さんは賃料収入からサーチコストを引いた収益を最大化しようと思っています。ここでは,借家人を探す不動産業者がエージェンシーになります。不動産業者は手数料収入からサーチコストを引いた収益を最大にしようとします。

そして,ここで重要なのは借家人を探すサーチコストが大家さんと不動産業者では異なるという点です。専門化の経済によって不動産業者のサーチコストは大家さんのサーチコストより低いため,大家さんは不動産業者に仲介を委託します。何日間不動産市場で募集をすると,収益が最大になるかは大家さんと不動産業者では違ってきます。

米国でノーベル経済学賞候補にもなっているS. Levittが2005年に,米国の不動産業者が,自分たちが所有する不動産を売却する際には,他者が所有する不動産より探索時間をかけて,高額で売却していることをあきらかにしました。日本でも,無名の私が契約態様(専属か一般かなど)によって売却価格,賃貸価格が異なることをあきらかにしました。

ただし,これらは不動産業者が不適切な行動を採っているというのではなく,プリンシパル・エージェンシー問題から起こる当然の結果だということです。ここでも,大家さんが不動産業者の行動をモニターできないことも要因になっています。


さて,このプリンシパル・エージェンシー問題は様々なところで起こっています。

私が最も問題だと思っているのは恥ずかしながら大学教育だと思っています。特に日本では大学教育投資を行っているのは保護者の方が多く,かれらがプリンシパルになります。そして,教育を受けるエージェンシーが学生です。保護者の方々は教育投資を最適にするため,学生に一生懸命勉強して欲しいのですが,エージェンシーである学生は教育を受けることによって得られる便益に関して情報を持っていないので自分の好き勝手に行動します。特に,親元を離れてモニターできなくなっている学生は特に・・・・。実は,私も40年前に上京してきて,そのような学生でした。反省しています。

それに加えて,教育を行う側にもプリンシパル・エージェンシー問題があります。教育するのは大学(プリンシパル)ですが,実際に教育しているのは教員(エージェンシー)です。ここでも教室内の教員の行動をモニターしていないので最適な教育にはなりません。

最近では,学生にも教員にもモニターが効かせている大学もあり,娘の大学では教室に入ってきたときにカードで入室を確認しているので,授業開始時間,終了時間も大学にモニターされており,親もその日のうちに出席が確認できるようになっています。

でも,こんなに見張られていて,学生も教員も可哀想ですよね。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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