ロンドンは国際都市で居続けることができるのか?
住まいを取り巻く最近の話題(第8回)
清水千弘
日本大学スポーツ科学部教授・マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員
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国際不動産投資
現在の大都市の不動産市場の動向を説明しようとすると,不動産投資資金の流れに関しても,同時に考えないといけません。
近年では,クロスボーダー投資,つまり国を超えた資金の流れの趨勢的な増加傾向を背景として,不動産価格の決定要因として国際的な資金フローの影響が注目を浴びています。
シンガポール国立大学の友人であるCristian Badarinzaは,ギリシャ危機が多くの欧州諸国の不動産価格を押し下げたものの,不動産投資資金が逆に流入したロンドンで価格を押し上げた現象を明らかにしています(Badarinza and Ramadorai (2017))。ギリシャ危機のような経済危機が起こると,投資家は市場からお金を引き出そうとします。できる限り投資損失を少なくしようとするためです。
とりわけ近年においては,新興国における過剰貯蓄が不動産市場における価格変動をもたらすという仮説(過剰貯蓄仮説:Global saving glut)も注目されるようになってきました。
つまり,産油国や中国などの経常収支黒字国の貯蓄比率が投資比率を上回っていることで,世界的な経常収支不均衡を引き起こすこととともに,そのように生み出された余剰資金が不動産市場に流入してきているのです。いわゆる「不動産の爆買い」の資金源となっているのではないかといわれている。
例えば,近年において,不動産投資市場で存在感が増してきているカタールの投資ファンドは,ロンドンで下記のような代表的な物件に投資をしています。
- London’s Savoy Hotel (2014)
- The Shard (2013)
- Harrods department store (2010)
- The Olympic Village (2012)
- HSBC tower (2014)
このような国際的な資金の動きが,ロンドンのような国際都市の不動産価格の高騰を招いている一因であると言ってもいいでしょう。
EUからの離脱: Brexit
そのような中で,イギリスは,EUから離脱するというBrexitが予定されています。
イギリスがEUから離脱した時に,不動産市場に大きな打撃があるのではないかともいわれています。果たしてどうなのでしょうか。
少し話を変えて,シンガポールでの議論を紹介しましょう。
私が,2015年にシンガポールでも高齢化に直面するために,住宅価格の暴落が起こるのではないかという研究を紹介しました。そうしたところ,複数の専門家から,シンガポールは,国際的な不動産市場であるため,国内の需要が低下したからといっても海外からの投資資金の流入があるため,不動産価格の下落は起こらないという意見が出されたのです。
ロンドンが抱えている問題は,その逆といえましょう。そもそもが国際的な不動産投資資金に支えられてきた不動産市場というわけですから,その資金の流出が起これば,不動産価格が暴落するというのです。
ここで留意が必要なのが,Brexitによっていくつかの金融機関が本社機能をフランクフルトなどに移転させるという影響を指摘されています。これは,投資資金の問題ではなく,不動産市場の需要が低下するということを意味しています。国内需要が低下する問題と,国際的な投資資金の流入が減少するとは独立の問題として考えないといけません。
Brexitは,通貨価値を大きく低下させました。
そのため,最近においては海外からの旅行者が増加してきています。この夏だけでも,街でもホテルでも少し歩くだけで多くの日本人を見ました。
つまり,英国に来ることに割安感を感じて,旅行者が増えたといってもいいでしょう。
不動産投資も同じで,通貨価値が一時的に低下することで,割安感を感じたドル通貨位で投資をする米国や,円通貨で投資をする日本など,投資資金が増加するのではないかという見立てもできるわけです。
Brexitは,国際的な資金の変化をどのように変化させるのでしょうか。