利子率って?-明日はどっちだ!!

経済学から見た不動産市場(第12回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


前回投資の話をしましたが,実際に利子とは何か?投資とは何か?を知っている人は本当に少ないと思います。

大学院の頃に金融機関の教育をやらされたことがあり,銀行員が金融論に関する知識が少ないことに驚きました。今もそれほど変わっていないと思います。ねえ,タスの元金融業者の方々。


まず,時間割引率について,簡単に説明していきます。

時間割引率は教科書的には時間によって価値が下がる率ってことになります。逆に考えた方が,分かりやすいのですが,今日10,000円をもらうのをやめて,1か月後にいくらもらったら同じ効用かというものです。

例えば,1カ月後の金額が10,200円なら今日1万円もらうのをやめて,1カ月後にもらってもいいと考えるAさんの時間割引率は10,200/10,000-1=0.02となります。さて,1カ月後の金額が10,500円のBさんの時間割引率は0.05になり,月金利(収益率でも構いません)が0.04ならAさんは投資しますが,Bさんは投資しないことになります。

当然,この時間割引率は人々の年齢や嗜好等によって異なってきます。

例えば,私のように還暦を過ぎた人の時間割引率は非常に高くなっています。なぜなら,投資しても将来の使える可能性が少ないからです。いやいや人生100年時代といわれているから,もっと貯蓄しようと言われるかもしれません。


ところが,この超高齢化というのをちゃんと統計的にみると,少なくとも私の時間割引率にはそれほど変えなくていいようです。

平均寿命とは0歳児の平均余命のことです。私の父(昭和3年生まれ)が生まれた頃は男性の平均寿命は45年で,私(昭和33年生まれ)が生まれた年の男性の平均寿命は65年なので20年伸びています。父は78歳でなくなっていますので私は98歳まで生きられるかというとそうではありません。父が60歳の時の60歳男子の平均余命は16年ですが,私が60歳の年の60歳男子の平均余命は24年ですから,この30年で8年しか伸びていません。要するに,若くして亡くなる人が少なくなったので,平均寿命は大きく伸びたのですが,歳をとるとそれほど余命は伸びていません。

ですから,個人的にはそれほど時間割引率を低くする必要は無いと言うことです。私たちはどんどん消費するか,下の世代に所得移転した方が良いという事です。

厚生労働省の統計不正事件がありましたが,統計をちゃんと理解しておくことが重要です。


前回のコラムでお話しした教育投資について応用していきましょう。

大学でいわゆる文系の学生は大学の予習復習のために1日37分,理系(医師薬系除く)の学生は62.9分時間を使っています(2017年学生実態調査)。すると,4年間の勉強時間は文系が900時間,理系が1,531時間となります。これらの機会費用(時給1000円のバイトで収入を得る)と4年間の授業料(N大経済学部とTD大工学部を比較)を加えると,理系は813万円,文系は450万円となります。

さて,理系と文系では偏差値が同じだと(まず,この仮定も変ですが),生涯所得は理系の方が4,000万円高くなることが分かっています。すると,大学4年間363万円(813-450)の投資をすると,生涯で4,000万円の利益になるということになります。

これで,理系に進学した学生と文系に進学した学生の時間割引率の違いが分かりますよね。ただ,文系でもちゃんと勉強していれば理系並みの生涯所得を得られることが分かっていますので安心してください。


さて,住宅問題に戻しましょう。

上記のように,人によって時間割引率が異なっています。ですから,投資として持家を持つのが良いのか,その分を消費した方が良いのかは人によって異なってきます。この時間割引率は最近は行動経済でかなり詳細に検討されていますので,これも追ってお話ししていきます。

また,投資としても金融資産に投資するのか,住宅のように実物資産に投資するかも人によって異なってきます。しかも,投資には不確実性も伴います。そして,次回にもやりますが,不確実性に対する嗜好も人によって異なります。危険回避度ですね。

ただし,なぜ30年近くキャピタルロスを出し続けた土地に皆さんが投資しているかはかなり難しい問題です。このキャピタルゲイン・ロスに関しても追ってお話しします。

これも,経済学者の怠慢だと思いますが,マクロ経済学の教科書ではいまだにデフレよりインフレの説明が多く,都市経済学の教科書ではキャピタルロスよりキャピタルゲインの説明が多いようです。学生はインフレやキャピタルゲインを体験したことないのに。規制緩和の話題で黒電話を用いるようなものです。


さてさて,冒頭の『明日はどっちだ』は分かりますよね。

皆さんは自分の時間選好率を合理的に考えて,若くして燃え尽きないでください。皆さんの年齢だと『明日のSHOW』?

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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