レインズデータから読み解く首都圏の中古マンション市場(第1回)


藤井和之
株式会社タス


ここ数年、メディア等で首都圏の中古マンション市場が活況であるという記事を目にする機会が多くなってきました。

国土交通省が発表している不動産価格指数によると、南関東の中古マンション成約価格指数は2009年から30%~40%上昇しています(図1)。首都圏の中古マンションの成約戸数は2010年から2016年にかけて約23%増加し、2016年以降は毎年37,000戸数強とほぼ横ばいで推移しています。なお、2013年の増加は消費税率が5%から8%に変更される影響で生じた駆け込み需要によるものです。

また、2010年から2018年までの首都圏中古マンションの価格高騰の影響を受け新築マンションの販売戸数が2014年以降に大きく減少したことから、2016年以降は新築マンションと中古マンションの市場規模が拮抗するようになってきました(図2)。これらの統計や分析結果を見ると、確かに首都圏の中古マンション市場は活況であるように思われますが、実態はどうでしょうか?

本コラムでは、東日本不動産流通機構(レインズ東日本)が毎月発表している月例マーケットウオッチから、首都圏の中古マンション市場の実態を読み解いていきます。第1回は、成約戸数に注目して解説しましょう。

図1 南関東の中古マンション価格指数の推移
出典:国土交通省 不動産価格指数(住宅)


図2 首都圏の新築マンション販売戸数と中古マンション成約戸数の推移
出典:不動産経済研究所 首都圏マンション市場動向、東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ



図3に2010年~2018年の首都圏の都県別中古マンション成約戸数の推移を示します。

埼玉県と千葉県、神奈川県の中古マンションの成約数は、消費税の税率が5%から8%に変更される影響で駆け込み需要の生じた2013年を除いて、増加幅が小さいことがわかります。つまり、首都圏の中古マンション成約数は、主に東京都で増加していたということです。

各都県の増加をより詳細に見てみましょう。図4は、2010年9月の成約数を100として指数化したものです。なお、成約数には季節変動がありますので、12か月の移動平均を取り指数化しています。

2011年3月以降、約1年にわたり全地域で成約件数が減少していますが、これは東日本大震災の影響を受けたものです。成約数は2012年3月以降に増加に転じ、消費税率が変更された2014年3月の成約数は2010年9月に対し、東京が約31%、埼玉県が約15%、千葉県が約11%、神奈川県が約12%増加しています。その後駆け込み需要の反動で成約数が減少しましたが、2015年3月以降は再び上昇に転じました。

しかしながら、東京都の成約数の増加は小幅にとどまっています。中古マンション価格の上昇が要因で、2017年以降すべての地域で成約数の増加は横ばい傾向で推移しています。2018年12月時点の成約数の増加幅は2010年9月に対し、東京都は約39%増加していますが、埼玉県と千葉県は約6%、神奈川県は約9%に止まっており、東京都とその他地域で二極化していることがわかります。

次回(第2回)は中古マンションの成約率に注目して解説します。

図3 2010年~2018年の首都圏の都県別中古マンション成約戸数の推移
出典:東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ

図4 首都圏の中古マンション成約数の推移(12か月移動平均:2010年9月を100として指数化)
出典:東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ

藤井 和之
藤井 和之
株式会社タス 主任研究員 兼 新事業開発部長 [経歴]東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了 清水建設株式会社入社。その後不動産投資分析ソフトの世界標準であるARGUSを発売するRealm Business Solutions(現ARGUS Software)、不動産ファンドの日本レップ(現Goodman Japan)を経て2009年より現職。 賃貸住宅の投資分析に用いることができる指標が少なく苦労した経験から、賃貸住宅の空室率や募集期間、更新確率等の時系列指標を開発。それらの指標と公的統計を用いた賃貸住宅マーケットの分析を行っている。
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