レインズデータから読み解く首都圏の中古マンション市場(第2回)


藤井和之
株式会社タス


前回(第1回)に引き続き、東日本不動産流通機構(レインズ東日本)が毎月発表している月例マーケットウオッチから、首都圏の中古マンション市場の実態を読み解いていきます。今回は「成約率」に着目して解説していきましょう。

図1に首都圏の地域別「対前月在庫成約率」の推移を示します。なお、「対前月在庫成約率」は、季節変動を除するために、在庫戸数および成約戸数それぞれの12ヶ月移動平均を算出した後に、成約戸数を前月在庫戸数で除して求めています。

首都圏の「対前月在庫成約率」は、東京都が2015年中旬から、埼玉県が2016年中旬から、神奈川県が2017年初旬から、千葉県が2018年初旬から、それぞれ悪化傾向にあります。2018年12月時点の「対前月在庫成約率」は、以下の通りです。

対前月在庫成約率

首都圏全域
6.71%
東京都
5.98%
埼玉県
7.52%
千葉県
10.14%
神奈川県
6.94%


図1 首都圏中古マンション「対前月在庫成約率」の推移
出典:東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ


ちなみに、2010年9月から2018年12月までの期間で、中古マンション在庫戸数は、東京都が約60%、埼玉県が約50%、千葉県が約40%、神奈川県が約45%増加しています。前回のコラムで、東京都の中古マンション成約数の増加幅が首都圏の中で群を抜いて高いということを解説しましたが、「対前月在庫成約率」を考慮すると、成約数の増加は在庫戸数の増加に伴うものであったことがわかります。

以上から、活況であるとされている首都圏の中古マンション市場の本当の姿が見えてきます。つまり、立地が良く、品質の高い、一握りの中古マンションに人気が集まる一方で、見向きもされない大量の中古マンションが在庫として滞留しているという二極化が生じているのです。

「対前月在庫成約率」によると首都圏には、成約できる(人気のある)中古マンションが15戸中1戸程度しか存在しないことがわかります。「対前月在庫成約率」が最も低い東京都においては17戸中1戸程度、最も高い千葉県でも10戸中1戸程度しか成約することができません。国土交通省の不動産価格指数(住宅)は成約価格から算出されていますので、前回ご紹介した南関東の中古マンション価格指数は、一握りの人気のある中古マンションの価格指数であると理解すべきなのです。


では、売却できなかった中古マンションは市場で滞留し続けるのでしょうか?

図2に首都圏の中古マンション在庫戸数と新規登録戸数の推移を示します。こちらも季節変動を除するために12か月の移動平均を採用しています。

首都圏では毎月15,000戸前後の中古マンションが新規に登録されていますが、在庫戸数は35,000戸~45,000戸で推移しています。これは、毎月一定数の中古マンションが売却をあきらめて市場から退出していることを示しています。消滅戸数は、前月在庫戸数に今月の新規登録戸数を加え、今月の成約戸数と今月の在庫戸数を減ずることで求めることができます。2018年12月時点の消滅戸数は、東京都が約8,200戸、埼玉県が約1,500戸、千葉県が約900戸、神奈川県が約3,350戸で、各都県とも前月在庫の約30%が消滅しています。

次回(第3回)は成約価格に注目して解説します。


図2 首都圏中古マンション在庫戸数と新規登録戸数の推移
出典:東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ

藤井 和之
藤井 和之
株式会社タス 主任研究員 兼 新事業開発部長 [経歴]東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了 清水建設株式会社入社。その後不動産投資分析ソフトの世界標準であるARGUSを発売するRealm Business Solutions(現ARGUS Software)、不動産ファンドの日本レップ(現Goodman Japan)を経て2009年より現職。 賃貸住宅の投資分析に用いることができる指標が少なく苦労した経験から、賃貸住宅の空室率や募集期間、更新確率等の時系列指標を開発。それらの指標と公的統計を用いた賃貸住宅マーケットの分析を行っている。
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