相続税は何のため?-息子の顔は私に似ているが補助金もらえる?

経済学から見た不動産市場(第13回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


令和に改元されましたので、今回は相続について考えていきましょう。前回予告していた危険回避度の件は回避します。


相続税と贈与税は不動産市場に大きな影響を与えています。

ところが,この2つとも再々制度が変更されています。死ぬ時期は決められないのにって思いますが,米国の研究では相続税率の変化によって年末年始の死亡率が変わることが明らかになっています。日本ではどうなんでしょうね。

現状では,どうやら若者に早い段階で資産を持たせ,消費を活性化させようとして,贈与税を軽く,相続税を重くする政策が採られています。平成27年に贈与税改正で,一般住宅用の住宅取得資金の贈与税は2,500万円まで非課税になったので,ほぼ非課税といえます。対して,相続税は逆に平成27年度に定額控除が5,000万円から3,000万円に低下したため課税対象被相続人が前年の平成26年度から倍近くになっています。

これをみると政策の目的である若者の持家取得を促進するのではないかと思われます。

ただし,以前にお話ししたように高齢化は世間で言われるほど進んではいません。1960年から2017年にかけて平均寿命は男性で16年,女性で17年伸びていますが,65歳の平均余命は男性で8年,女性で10年しか伸びていません。そして,介護を受けたり,寝たきりになったりせず日常生活を送れる健康寿命は2000年以降しか公表されていませんが,平均寿命と同じぐらい伸びています。健康な期間が延びたことになります。そして,平均初婚年齢は1960年から2015年にかけて男女とも5歳程度上昇し,第一子の出生時年齢も5歳ぐらい上昇しています。

ようするに,結婚以降の年数は5年程度伸びただけです。高齢化で相続時期が遅れて持家が持ちづらくなっているというのは誇張です。


またまたまた,教育と相続について考えてみましょう。

日本では子供に教育投資を行うことは非常に優遇されています。なぜか,子や孫に教育資金であれば1,500万円まで贈与が非課税になります。まあ,スイミングスクールでもOKですから・・・・。

この教育資金贈与税は非課税まではいきませんが,教育は親から子への相続に間違いないはずです。教育には様々な補助金が国から出ていますが,どうして教育投資なら良いのでしょうか。教育投資の収益率が高い人にとっては良い制度でしょうが,教育投資の収益率が低い人にとってはどうでしょうか。

本来,その資金があれば教育を受けずに,他の選択肢で収益が上がる人もいるはずです。教育投資に課税されず,補助金まで与えるため,本来は他の道を選択した方が,収益率が高いのに大学に来てしまう学生がいるのではないでしょうか。

この教育投資に対する補助金は学生の余剰も増やしますが,当然大学(大学の教員も)の余剰も増やします。これ以上言うと給与が出なくなりそうなのでやめますが。


さて,住宅の問題に戻しましょう。

相続には王朝的動機と戦略的動機があるといわれています。前者は子供の幸福が親の効用を上げるというモノです。後者は老後の介護等をしてほしいために相続を期待させるというモノです。何か嫌ですが,実証分析ではこの戦略的動機があるとされています。私は,既に両親が亡くなっていますがWifeの両親の近くに住んでいますが,別に戦略的に選択したわけではないのですが・・・


ところで,教育や住宅以外にも資源配分を歪めている市場があるような気がします。

例えば,両親がともに国民的アイドルの娘さんが作曲もできて,スタイルが良くてモデルもやっていますが,これらの資本(資金も運動神経も,顔も資本です)はご両親からから相続したはずなのに相続税は課税されていません。

労働経済で実証済みなんですが,学力が同じでもイケメンの方が給与は高いそうです。顔は十分資本です。

もし,資本を次世代に委譲するときに課税するなら,負の資本を委譲すると補助金くれるの?

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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