直接還元法
収益評価の基本のキ(第3回)
「不動産の利回り」ちゃんと理解していますか?
藤井和之
株式会社タス
前回まで(第1回・第2回)は不動産の利回りについて解説してきました。いよいよ本題の収益評価についてお話していきます。
今回は、日本で一般的に利用されている直接還元法について取り上げます。
第1回で不動産の利回りは、
という式で算出されるというお話をしました。
直接還元法は、下記のようにこの式を返還することによって不動産の価格を求める方法です。
この際に利用する”不動産の利回り”を「収益還元利回り」や「CAPレート」と呼びます。ちなみに、収益還元法を英語では「Capitalization Method」と呼び、その時に使用する利回りを「CAPitalization Rate」と呼びます。「CAPレート」はこの略語です。日本では単に「キャップ」と称することもあります。
通常「収益還元利回り」は、経済動向や周辺の不動産市場(対象とする不動産がオフィスならばオフィス市場、賃貸住宅ならば賃貸住宅市場)の状況、対象不動産の市場における競争力等から設定します。リーマンショック前後でオフィス価格が乱高下したことからわかるように、不動産は経済動向の影響を強く受けます。
したがって「収益還元利回り」は、第2回で紹介した”不動産の利回り”を求める式に「経済成長率」を考慮して
収益還元利回り = リスクフリーレート + リスクプレミアム - 経済成長率
が使われます。
賃料や空室率の情報の入手が難しい日本においては「収益還元利回り」のリスクプレミアムの調整によって価格の調整を行うことが多いですが、本来「収益還元利回り」は大きく調整するものではなく、上辺の”収益”を詳細に査定することにより行うべきものです。”収益”がいい加減だと不確実性が大きくなるので収益価格の妥当性が大きく下がります。したがって、収益還元法で用いる”収益”に「満室想定収入」が用いられることはなく、通常はNOIもしくはNCFが使用されます。
第1回でも述べた通り、投融資の判断ではNOI、日本の不動産鑑定評価ではNCFを使用することが不動産鑑定基準で定められています。
「日本の…」と書きましたが、欧米では不動産鑑定評価においても売買の評価ではNOIを用いることが一般的です。
なぜなら、大規模修繕などの資本的支出は、購入者が購入後の判断で支出するものであるからです。大規模修繕の考え方の違いで、購入側と売却側の不動産鑑定評価が大きく食い違うケースもありますので、売買時の査定ではNOIを用いるほうが理にかなっています。
なお、直接還元法は”収益”が永久に変わらないことを前提にしています。このため「永久還元」と呼ばれることもあります。したがって、築年による賃料の下落や空室率の上昇、修繕費の上昇等を考慮して”収益”を査定することも重要です。
次回は、収益還元法のもう一つの手法であるDCF法について解説します。