製造物責任ですか-子供の責任は親が取るより企業や伴侶が保険をかける?

経済学から見た不動産市場(第20回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


文字通り師走でコラムの間隔が開いてしまいましたが,今回は住宅に関する話題を扱っていきます。


平成30年4月1日に施行された改正宅建業法で既存住宅(以下では,中古住宅と記します)のインスペクション(住宅診断)が重要事項説明に入りました。

これは,日本の中古住宅の流通が他の先進国と比較すると非常に脆弱で,加えて空き家住宅問題もあり,国交省は中古住宅の流通活性化を図ろうとした施策の一つです。

住宅取引に占める中古住宅の割合は米国81.7%(2014年),英国87.0%(2013年),仏68.4%(2013年)なのに対し,日本は14.3%(2013年)になっています。特に,戸建住宅に関しては,米国の戸建住宅のうち注文住宅は1割以下ですが,日本は7割以上が注文住宅です。分譲住宅(マンションも)なら,同じ分譲住宅の売買履歴を見ればどの程度の質なのかはある程度わかりますか,注文住宅だと個々の質を保証するデータがありません。また,注文住宅だと規模の経済が発揮されないので単価も高くなってしまいます。中古注文戸建住宅の場合,質が分からず,最初に建てた建て主の要求に応じて建てた住宅なので,買い手の好みに合っているかもわかりません。この点も中古住宅の流通が少ない理由になっています。


さて,前述のインスペクションについてもう少し,詳しくみていきましょう。

一見,中古住宅の売買では売り手が質を保証した方が良いように思いますが,売り手が保証する制度では,以前にお話しした逆選択が起きる可能性があります。

専修大学の瀬下教授が明確に解いていますが,売り手責任にした場合には,売り手にはリスクがあっても安く購入したいという買い手と,売り手にリスクを負担して欲しい買い手のどちらかがわからないため,後者の高い価格を設定してしまう。すると,前者の人たちが市場から居なくなります。

これが中古住宅市場でおきる逆選択です。買い手責任にすると買い手は自分がリスクはあっても安くていい人なのか,リスクが嫌いな人なのかは分かっており,前者だとインスペクションを行わないし,後者ならインスペクションを行い,逆選択は起きません。

中古住宅の流通が盛んな米国ではインスペクションは買い手責任のもとで普及して約70%,対して日本ではインスペクション(日本での建物状況調査)は4%程度と言われています。米国も当初は売り手がやっていましがが,不動産業者とインスペクション業者の癒着が起こったため,多くの州で買い手責任となってきました。しかし,これほど利用率が低いのに重要事項説明に入れても不動産業者の人たちにとってはちょっと無駄足ってやつになりそうで。

日本では大手住宅メーカー10社が一般社団法人優良ストック住宅推進協議会を設立し,住宅の品質に関する情報の非対称性への対応をしています。同協会は,住宅履歴データベースを保有していること,建築後も点検・修繕が実施されていること,新耐震基準レベルの耐震性を保持していることを満たしている住宅を「スムストック」と定義し,独自の細かな査定方式で査定後,販売まで行い,中古流通市場の活性化を図っています。詳細は同協議会のWEB(https://sumstock.jp/)を参照してください。


製造物責任って難しいですよね。親としては子供を教育した責任があるのですが,上記を鑑みると,私が責任を持つより,子供達を採用した企業や,結婚相手となる伴侶が保険をかけるべきなんでしょうね。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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