賃貸住宅のDDCF法の値の考え方
収益評価の基本のキ(第10回)
DDCF法④
藤井和之
株式会社タス
今回は、DDCF法による値の考え方について解説します。
まず、前回のコラムで算出した10,000回のNOIパスを用いて、10年のDCF値を算出します。なお、割引率は5%、ターミナルキャップレートは4.5%として算出を行いました。
前回解説したように、賃貸住宅の賃料変化率、空室率変化率が小さいため、NOIのパスの幅が狭くなります。結果として算出されるDCF値についても狭い範囲に収まります。
図1に算出したDCF値を1,000,000円幅でヒストグラムにしたものを示します。賃料、空室率共に確率分布に正規分布を用いていることから、DCF値のヒストグラムも正規分布に近い形に収まっていることが読み取れます。
図1 DDCF法で算出した例題のDCF値のヒストグラム
DDCF法による値(物件価格)を読み取る方法として、以下の3つの方法があります。
1.10,000個の値の平均や中央値をDDCF法の値とする方法
今回の例題の平均は2,339,698,933円、中央値は2,339,813,996円ですので、このどちらかを値として採用する方法です。
2.平均 ± 標準偏差の範囲を値とする方法
正規分布では、全ての度数の68.3%が平均値から標準偏差 ± 一つ分の間に、全ての度数の95.4%が平均値から標準偏差 ± 二つ分の間おさまる性質があります。
これを応用して、平均 ± 標準偏差の範囲を値とする方法です。今回の例の場合は、標準偏差が14,629,303円ですので、値の範囲は2,325,069,630円~2,354,328,237円となります。
3.区間推定により算出された範囲を値とする方法
母集団からn個のサンプルを抜き出したときに、母集団の平均がどのくらいの確率で、どの範囲に収まるかを推定する方法が区間推定です。指定した確率で母集団の平均が含まれる範囲を信頼区間と呼びます。
μ |
母集団の平均 |
S |
サンプルの平均 |
E |
標準誤差=サンプルの標準偏差 ÷ サンプル数の平方根 |
Z |
指定した確率となる標準正規分布の値 |
α |
指定した確率 |
としたときに、信頼区間は下記の式となります。
S − Z × E < μ < S + Z × E
例えば、確率を99%としたときには例題の信頼区間は、2,339,322,035円~2,340,075,831円となります。
前回の繰り返しになりますが、景気が安定している場合は不動産の賃料、空室率の変化率が小さくなります。特に賃貸住宅については、リーマンショック前後のように景気変動が大きい時であってもこれらの変化率が小さいことがデータでも明らかです。
したがって、多大な手間をかけてDDCF法で分析する必要性は低いのです。これが、DDCF法が利用されなくなってきた要因であると考えられます。