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コロナ禍が中古マンション市場に与えた影響

レインズデータから読み解く首都圏の中古マンション市場(第4回)


藤井和之
株式会社タス

目次[非表示]

  1. 1.新型コロナウイルスの影響
    1. 1.1.不動産市場
    2. 1.2.企業を取り巻く環境
  2. 2.今後の首都圏中古マンション市場動向
    1. 2.1.中古マンション成約数と新規登録数
    2. 2.2.対前月在庫成約率と成約㎡単価
    3. 2.3.今後の見通し
  3. 3.【参考】新型コロナウイルスによる市場変化の可能性


新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスの影響で経済環境や生活様式が一変してしまいました。

日本はなんとか第1波(注1)をしのぎ切った感がありますが、日本も含めたグローバルな行動制限の影響で内需・外需ともに大きく悪化しています。

シンクタンク各社の予測では、景気回復には数年を要するとの見方が主流です。また、感染拡大第2波の到来により景気低迷がさらに長期化することも懸念されています。

政府や中央銀行により空前の対策が行われていることから、事態収束後にハイパーインフレになるとの予測がある一方で、需要が長期に低迷するためデフレになるとする予測もあり、未曽有の事態にアナリストも困惑していることが伺えます。


不動産市場

不動産市場に対する影響についても予想が混在しています。

投資先を失った余剰資金が不動産市場に流れ込むことでバブルになる、テレワーク等の導入が進むことにより都心部のオフィスの価格が下落する、など諸説入り乱れています。

筆者は、投資市場と消費者市場(持ち家市場)は分けるべきであり、少なくとも消費者市場の縮小は免れないだろうと考えています。


不動産を購入する際に、購入価格は年収の5倍(年収倍率5倍)以内、世帯年収に占める住宅ローン返済額の率は25%(返済負担率25%)以内が安全であるといわれています。

これに対して住宅金融支援機構の「フラット35利用者調査2018年度」(注2)によると、首都圏のフラット35利用者の年収倍率返済負担率25%を超えたローンを組んでいる利用者の割合は、以下のとおりです。


年収倍率
返済負担率25%超の利用者割合
注文住宅
6.6
26.6%
土地付注文住宅
7.6
35.5%
建売住宅
6.9
39.2%
新築マンション
7.3
26.9%
中古住宅
5.8
22.3%
中古マンション
6.1
27.3%


なお「フラット35利用者調査2018年度」に記載されている返済負担率は世帯月収に対するものですので、ボーナス時の支払額を考慮すると世帯年収に対する返済負担率が25%を超えている世帯の割合は、このデータよりも多いと考えられます。

これらのデータが示しているのは、多くの不動産購入者が背伸びをしたローンを組んでいるということです。これを下支えしてきたのが、長期にわたる低金利施策と住宅ローンの長期化、そしてアベノミクスによる雇用の安定です。


企業を取り巻く環境

新型コロナウィルスの影響により3月以降、企業を取り巻く環境も一変しました。

大手企業(注3)、中小企業(注4)関わらず、業績の下方修正が相次いでいます。景気悪化による企業業績の悪化は雇用環境を直撃します。

4月時点で完全失業者は前月比+6万人の189万人、完全失業率は同+0.1ポイントの2.6%に止まっていますが、休業者は同+348万人(2月比+401万人)の597万人と大きく増加(注5)しています。

休業者の中には、政府の支援策により失業を免れている人が多く含まれていると考えられますが、事態が長期化するとこれら休業者が失業者として顕在化する可能性も指摘されています。

このように将来の安定した収入や雇用の安定が不安定になると、高額の住宅ローンを組んでまで持ち家を取得する意欲が減退します。また、失業や休業を免れてもボーナス減額等により年収が減少する世帯が増加することは確実です。

経済団体連合会が発表した「2020年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結状況(加重平均)第1回集計(注6)」によると全業種の平均は前年比▲6.00%と、リーマンショック以来の下げ幅となっています。これは、すでに住宅ローンを支払っている世帯のローン破綻リスクを増加させます。そしてローン破綻の増加は、持ち家取得意欲をさらに減退させることになります。

このような理由から消費者市場は、景気動向の影響を強く受けるのです。


今後の首都圏中古マンション市場動向

さて、本シリーズは東日本不動産流通機構(レインズ東日本)が毎月発表している月例マーケットウオッチのデータを用いて首都圏の中古マンション市場の実態について考察を行っています。

第1回第2回第3回では「立地が良く、品質の高い」一握りの中古マンションに人気が集中して価格が上昇している一方で、見向きもされない大量の中古マンションが在庫として滞留しているという二極化が生じていることを解説しました。

今回は、直近のデータから今後の首都圏中古マンション市場動向について考察します。


中古マンション成約数と新規登録数

首都圏の中古マンション成約数は、前年同月比で4月が▲52.6%、5月が▲38.5%と大幅に減少しました。緊急事態宣言により対面営業が制限されたことが、宅建業者の営業活動に影響を与えたことが伺えます。

一方で、新規登録数は成約数に比較して減少幅が少なく、前年同月比で4月が▲18.0%、5月が▲8.5%に止まっています。新規登録件数の前年同月比は、2018年中旬をピークに縮小しており、2019年以降は概ねマイナスで推移し長期的な傾向は変化していません。むしろ緊急事態宣言下であったことを考慮すると、景気悪化の影響を受けて売却を検討する方が増加した可能性が考えられます。結果として、在庫件数は前年同月比で4月が▲2.0%、5月が▲0.9%でした。(図1)

図1 首都圏中古マンション「成約件数」「新規登録件数」「在庫件数」の前年同月比推移
出典:東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ 作成:株式会社タス


対前月在庫成約率と成約㎡単価

前月在庫に対する成約率は、前年同月比で4月は▲51.0%の3.53%、5月は▲37.2%の3.66%と大幅に悪化していますが、成約㎡単価については前年同月比で4月は▲4.5%の50.88万円、5月は+0.4%の52.03万円と、4月こそ落ち込んだものの5月は持ち直しています。(図2)

2018年以降、首都圏中古マンションの対前月在庫成約率は6.5%前後で推移していました。

前述した通り首都圏では「立地が良く、品質の高い」一握りの中古マンションに人気が集中していた状態です。コロナ禍前は、人気のあるマンションは約15戸に1戸の割合でしたが、コロナ禍後は約28戸に1戸まで選択肢が絞られたことになります。

ただし成約㎡単価に大きな変化が見られないことから現状は「価格負担能力のある購入者が減少」つまり需要が減少した状況であると言い換えれば、価格の割高感が出てきている状況と考えられます。

図2 首都圏中古マンション「成約㎡単価」「対前月在庫成約率」の前年同月比推移
出典:東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ 作成:株式会社タス


今後の見通し

今後、Withコロナ期間中は景気悪化が継続する可能性が高いことから、需要は当面弱含みで推移するでしょう。

需要回復のためには、価格の値ごろ感が重要です。消費者が値ごろ感を持つまでは価格に対して押し下げ圧力が働きます。消費者が値ごろ感を持つようになるとAfterコロナにかけて需要が増加し、コロナ禍が収束すると価格は再び上昇に転じると考えられます。(図3)


日本は再び感染者が増加傾向にあるものの感染爆発をなんとか免れています。

一方で、グローバルでは未だに感染者が急増しています。そのような状況下で、経済回復を目的として規制緩和や渡航規制緩和に舵を切り始めた国が多くあります。

人の動きが活発になれば、第2波のリスクも高まりますので、今後の状況の変化に注意が必要です。

図3 予測される中古マンション市場の変化



(注釈)

  1. 本稿執筆(6月末)時点。2月~3月中旬までの感染拡大を「第1波」3月中旬以降の感染拡大を「第2波」とする報道もありますが、本稿ではまとめて「第1波」とします。
  2. フラット35利用者調査2018年度 住宅金融支援機構:https://www.jhf.go.jp/about/research/loan_flat35.html
  3. 新型コロナウイルスの影響による上場企業の業績修正動向調査(2020年6月24日時点)帝国データバンク:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p200612.html
  4. 全国小企業月次動向調査(2020年5月実績、6月見通し)日本政策金融公庫:https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/getsuji_202006.pdf
  5. 労働力調査(基本集計) 2020年(令和2年)4月分結果 総務省:https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html
  6. 2020年夏季賞与・一時金 大手企業業種別妥結状況(加重平均) 日本経済団体連合会:https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/058.pdf

【参考】新型コロナウイルスによる市場変化の可能性

こちらの資料もあわせてご覧ください。​​​​​​​

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