経済学を応用している者としての反省
経済学から見た不動産市場(第24回)
浅田義久
日本大学経済学部教授
未だに,世界的にもコロナ感染の拡大が続き,日本でも感染者が再び増加し始め第二波が危惧されている状態です。
亡くなられた方々に哀悼の意を表するとともに,療養中の方やご家族の皆さまに心からお見舞いを申し上げます。また,医療関係者の方々に敬意と感謝を表します。
都市経済学を教えており,少ないながらも研究や政策提言をしてきた者として非常に考えさせられ,このコラムもコロナ禍の中で中止していました。しかし,やはり都市経済学を学ぶ者として反省し,今後を考える必要があると思い,ここから数回は今回の問題を取り扱いますので,やや深刻なものになるかもしれません。
今回は,密集の問題を扱いますが,その他にも一連の施策の負担,保健所等の民政事業や,インフラ整備不足に関する問題点などがあります。
私を含めた都市経済学の専門家達は集積の経済が大切だと思ってきました。政策的に,都市,特に東京圏は混雑が激しいとして地方圏に地方交付金や国庫支出金を多く配分し,都心の容積率や用途地域制限も厳しくして集積を防ごうとしてきました。
上記の政策は経済学的には適していないため,外部不経済である交通混雑など集積の不経済には課金し(外部性を無くすことに対して補助金を与えても同じ),外部経済である集積を促進する政策を採るよう働きかけてきました。
しかし,今回のコロナ感染症では人口密度に比例して感染速度が速くなることが分かっているので,これは大きな外部不経済です。外部不経済には課金という原則からは,罹患した人に課金をということになりますが,自ら好んで罹患したのではないので課金はできません。また,やや複雑なのは若い人は罹患しても重病化するリスクが少なく,高齢者はリスクが高いということです。これらの対応も経済学的に検討する必要があります。
このリスクによって今後は都心の集積が減るかというとかなり判断が難しくなります。テレワークが進んで都心集積が減るという方もいるようですが,米国では既にテレワークもできる環境でしたが,都心集積は日本以上です。
例えば,職場での感染率を低く保たれる技術ができれば,感染率を減らすために,通勤時間を削減する効果があり,都心居住が進む可能性もあります。また,職場で従業員の間隔を空けようと思うと,床需要は増してしまうはずです。
今後,この課題を少し探ってみようと思いますが,歴史的に見てスペイン風邪などの流行があっても都市化が進んでいます。ただ,近年は健康のコストは増しているし,通信技術も発達しているのでそれほど簡単では無いと思います。
今後,ワクチンの開発が進めば一時的には通常の生活に戻り,不安も解消されると思いますが,都市開発には時間が必要で,遡及することもできませんので,都市政策を考え直す必要があると思います。