統計学を知って欲しい-微積より大事かも

経済学から見た不動産市場(第25回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


執筆時(9月1日)には,東京,全国も新型コロナウイルスの新規患者数(これも後述のように定義がおかしい)がやや落ち着いてきましたが依然として高水準で,第三波も危惧されています。


私は医学や感染症に関しては素人で,統計学の専門家ではありませんが,統計学をちょっとかじった者としてこの数値の出し方,論評の仕方には違和感を覚えます。
毎日のようにPCR検査による陽性者を新規患者数として報道されていますが,これは統計として使って良いものではありません。サンプリングバイアスが大きすぎるからです。

第1波の時期(3月25日~5月14日とします)は,PCR行政検査を受けている対象者は人数が少ないことは言われていますが,対象者は次の3つの要件が必要でした。

  1. 37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し入院を要する肺炎が疑われる者
  2. 症状や新型コロナウイルス感染症患者の接触歴の有無など医師が総合的に判断した結果,新型コロナウイルス感染症と疑う者
  3. 新型コロナウイルス感染症以外の一般的な呼吸器感染症の病原体検査で陽性となった者であって,その治療への反応が乏しく症状が増悪した場合に,医師が総合的に判断した結果,新型コロナウイルス感染症と疑う者
    (厚労省健康局(令和2年2月17日)「新型コロナウイルス感染症に関する行政検査について(依頼)」)

の3つです。

これをみると,無症状の人は対象外となっていたはずです。それが,徐々にクラスター対策が進み,現在のPCR検査対象者は無症状者が非常に多くなっています。

これは明らかにサンプリング対象者が異なっているので,比較しては良くありません。時系列で比較したいのなら,定点(新宿駅前でも構いません)で毎日100人位をランダムサンプリングしてPCR検査を行った方がよほど確かな傾向がみられます。

ただし,私見としてPCR対象者数の増減を論じているわけではなく,現状のPCR検査での陽性者を感染の度合いの指標としてはみなせないと考えています。本来,厚労省,東京都ともに検査陽性者として公表していますので,これを毎日の数値を比較しても統計的には何の情報にもなりません。

おそらく,医学の専門家の方も理想としてはすべての感染者を把握して,対応することが望ましいとお考えなのでしょうが,悉皆調査が無理なことをご存じの上で濃厚接触者に対するPCR検査を行っているのだと思います。

ところが,このPCR検査の結果を受けて,新感染者数として感染率として報道されていました。


感染率の導出には上記のようにランダムサンプリングによる調査の方が適しています。

例えば,SNA統計でGDPの約53%を占める家計最終消費支出を推計するために用いている家計調査の調査世帯は全国で8,076世帯,単身調査世帯は673世帯です。平成27年国勢調査では全国で53,448,685世帯ですから抽出率は0.02%です。皆さんが視聴率で一喜一憂するオリコン視聴率調査の対象世帯も5,100世帯です。

そして,統計学を使って何%有意かを検討すれば良いだけです。


ランダムサンプリングで行われた調査としては,厚労省が6月1~7日にかけて行った抗体検査があり,東京都内住民(その他,大阪府,宮城県で行われました)3,000人に対し無作為抽出で行ったもので,東京都で陽性率が0.1%となっています。

東京都の人口は約1,400万人ですから、既に14,000人が陽性だったことになります。ところが,6月1日までの東京都が報告した累積新規患者数は5,231人です。すると,陽性者の中で東京都の検査で陽性と分かった比率は37%になります。

現状(9月1日現在)では第2波と言われ,第1波より陽性者が多いと問題になっていますが,第1波の間は4,855人が新規患者数で,第2波を6月14日からとすると8月31日までに14,978人が新規患者数となっています。

確かに,東京都が発表している新規感染者は多くなっていますが,真の陽性者の中で東京都のPCR検査で陽性と分かった比率が80%に上がっていれば陽性者は第1波の1.3倍とわかります。

真の陽性者の中で東京都のPCR検査で陽性とわかった比率を出すには,上記の毎日のランダムサンプリング調査を行いながら,このランダム抗体検査を半月に1回程度行うことが必要になります。


また,確率論の話なので上記とはやや異なりますが外出規制に関してもちょっと違和感があります。当初,人との接触を8割減にという報道だったはずです。それが,いつからか外出を8割減が目標になっていたように思います。

外出を8割減らすとどうなるかを考えてみましょう。外出を80%減少させると,外に出ている人が20%になり,外出した20%の人たちも人との接触が20%に減少します。外出していない人は人との接触は0になりますので,結局全体の接触率は4%にまで低下します。

緊急事態宣言期間にテレビでは毎日のように外出者数が報道されていましたが,接触率と外出率の関係は示されていたのでしょうか。


昔々,教育課程審議会会長の作家である奥様が「二次方程式を解かなくても生きてこられた」と仰られたために中学校の二次方程式の解の公式が削除されましたが,生活するためには微積より統計学の方が重要なのではないでしょうか。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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