中古マンション市場はバブルに向かうのか?

レインズデータから読み解く首都圏の中古マンション市場(第5回)


藤井和之
株式会社タス


10月の首都圏の中古マンションの成約件数が、1990年5月の東日本不動産流通機構発足以降、過去最高を記録(注1)しました。

新型コロナウイルス対策として各国が財政出動や金融緩和を行っているため、感染拡大当初から大量のマネーが不動産市場に流れ込みバブルになるのではないかという話がささやかれてきました。実際、株価は低迷している実体経済と相反して連日高値を更新しておりバブルの様相を呈しています。そこに過去最高の成約数ですので「中古マンション市場もついに来たか!」という声がでるのも頷けます。

一方で、企業業績の悪化から冬のボーナスはリーマンショック以来の大幅マイナスとなることが予想(注2)されています。このような環境下で、高額のローンを組んで住宅を購入する人が急増するという状況になることはないでしょう。

おそらく不動産に資金が流入するとしたら、不動産ファンドに組み込まれるような機関投資家型投資をする物件に限られると考えられます。


本シリーズは、東日本不動産流通機構(レインズ東日本)が毎月発表している月例マーケットウオッチのデータを用いて首都圏の中古マンション市場の実態について考察を行っています。

今回は、10月の成約数増加の要因を分析し中古マンション市場がバブルに向かっているのかどうかを考察します。


中古マンション成約数と新型コロナウイルス陽性者数

図1に東日本不動産流通機構の月例マーケットウオッチから作成した、首都圏各地域の2020年1月~10月の中古マンション成約数の前年同月差を示します。

首都圏の中古マンション成約数は、前年同月差で4月:▲1,811戸(▲52.6%)、5月:▲1,057戸(▲38.5%)と大幅にマイナスとなりました。前年同月差マイナスは、埼玉県で6月、その他の都県で7月まで続き、8月にいったん回復しましたが9月には再びマイナスに転じ、その後10月に大幅プラスとなりました。

図1 中古マンション成約数前年同月差
[出典:東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ 作成:株式会社タス]



図2は、東京都の陽性者数の推移と中古マンション成約数の前年同月差を比較したものです。

緊急事態宣言下の4月は、陽性者数の増加と中古マンション成約数の減少が同時に発生しましたが、それ以降は陽性者数の増減に成約数の前年同月差の増減が遅延していることが読み取れます。

また、8月の感染第2波時には、陽性者数が4月の約2倍に増加したにもかかわらず、9月の成約数の前年同月差のマイナス幅が小さくなっておりコロナ禍への「慣れ」が垣間見えます。この「慣れ」が第2波収束後に陽性者数が高止まりしていたにもかかわらず、10月の成約数の前年同月差が大幅にプラスとなった要因と考えられます。

図2 東京都新型コロナウイルス陽性者数推移と中古マンション成約数前年同月差
[出典:東京都 新型コロナウイルス陽性患者詳細発表、東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ
作成:株式会社タス]



では、これはバブルの前兆なのでしょうか。

ここ数年、首都圏の中古マンションの成約件数は年間38,000件前後で推移していました。もしコロナ禍が発生しなければ、2020年も同程度の成約件数が見込めたと考えられます。


図3に首都圏各都県の中古マンションの成約数前年同月差の累積(1月~10月)を示します。

中古マンションの成約数は、東京都と神奈川県は7月、埼玉県と千葉県は6月を底に前年との差が縮小傾向にあります。

しかし、10月時点で東京都:▲1,233戸、埼玉県:▲227戸、千葉県:▲320戸、神奈川県:▲612戸と未だに前年同月よりも累積の成約数が少ない状況が続いています。

したがって、10月の成約数増加は本来であれば4月~7月に中古マンションの購入を予定していた人が、陽性者数が小康状態の間に集中して購入を行った結果と考えるのが妥当でしょう。決して、バブルと呼べるものではありません。

図3 中古マンション成約数前年同月差の累計
[出典:東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ 作成:株式会社タス]



陽性者数は、11月中旬までほぼ横ばいで推移していましたので、11月の成約数も高水準の可能性が高いと思われます。

しかしながら、11月中旬以降に訪れた第3波の影響で12月の成約数は再び減少する可能性が高いでしょう。企業業績の悪化から購入を断念している人も少なくないと考えられます。

一方で、テレワークの導入が進んでいる大企業の社員を中心に、少し広い家への住み替え需要の増加というプラス要因もあります。

以上を総合すると首都圏の成約数は、2020年通年で2019年より若干少ない36,000戸~37,000戸程度に着地すると考えられます。



(注釈)

  1. 月例速報 MarketWatch サマリーレポート2020年10月度 東日本不動産流通機構:http://www.reins.or.jp/pdf/trend/mw/mw_202010_summary.pdf
  2. 2020年冬季ボーナス予測 リーマンショック後以来の大幅マイナスに みずほ総合研究所:https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/jp201116.pdf


藤井 和之
藤井 和之
株式会社タス 主任研究員 兼 新事業開発部長 [経歴]東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了 清水建設株式会社入社。その後不動産投資分析ソフトの世界標準であるARGUSを発売するRealm Business Solutions(現ARGUS Software)、不動産ファンドの日本レップ(現Goodman Japan)を経て2009年より現職。 賃貸住宅の投資分析に用いることができる指標が少なく苦労した経験から、賃貸住宅の空室率や募集期間、更新確率等の時系列指標を開発。それらの指標と公的統計を用いた賃貸住宅マーケットの分析を行っている。
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