あなたのマンションは貸すべき?売るべき?

生田 遼羽
株式会社タス データソリューション部

Abstract

  • 分譲マンションを対象として、各物件の住宅資本コスト(表面利回り)を計測し、築年数と住宅規模でシミュレーションした

  • 築年数別シミュレーションの結果、築20年超で資本コストが上昇する

  • 規模別シミュレーションの結果、住宅規模24㎡以下で貸家、24㎡超で持ち家の資本コストが低くなった


はじめに

現在、人々の住み替えフローや居住形式の変化から、「この不動産を売ったらいいのか貸したらいいのか」という問題があります。

そこで本研究では、資本コスト(表面利回り)を持ち家・貸家の物件ごとに計算し、またそれが築年数と住宅規模によってどのように変化するのかをシミュレーションしました。資本コストとは、住宅を所有する費用のことです。

これによって、世帯が所有している物件を貸し出すべきか、売り出すべきかを検討する指標を提示します。


住宅資本コスト

本研究では[ 資本コスト = 1年間の総賃料 / 住宅価格 ]として定義します。
そこで、実際の取引データから資本コストを計算したいのですが、持ち家の資本コストを計算するためには分子にあたる賃貸価格のデータが、貸家の資本コストを計算するためには分母にあたる売買価格のデータが存在しない、というデータ上の制約が存在します(下図)。


そこで本研究は、仮想的な賃貸価格(仮想賃料)と仮想的な売買価格(仮想価格)をヘドニックモデルに基づいて推定します。これによって各物件の理論的な資本コストが計算できます。

実際に仮想指標を算出するためには、下図に示されている通り2つのステップを踏む必要があります。

まずステップ1では、持ち家・貸家データからそれぞれ価格モデルと賃料モデルを推定します。次のステップ2では、ステップ1で求めた各理論モデルにおいて、賃料モデルに持ち家のデータ、価格モデルには貸家のデータを挿げ替えることによって、持ち家の仮想賃料と貸家の仮想価格を算出します。これで仮想指標が求まれば、理論的な資本コストが計算できることになります。



仮想指標を算出するための説明変数には、築年数や住宅規模、最寄り駅までの時間などの住宅属性変数、市区町村ダミー変数や駅ダミー変数などの地域特性変数、時点特性として公開時点ダミー変数を採用しました。


データの概要

本研究では、不動産情報掲載会社である「アットホーム株式会社」の居住用賃貸住宅データおよび居住用分譲住宅データを使用します。

ここでは、サンプルサイズも大きく、ロバストな推定が行える東京23区内の中古マンションの物件と、中古マンションとして売買されたことがある賃貸マンションの物件を対象としています。このように、そもそも分譲マンションとして建築・販売された住宅に限定することで、質が異なると考えられる”貸家として建てられた物件”を対象から排除しています。

対象期間は、2012年1月から2019年3月末日として、その期間中に募集掲載された物件を使用します。


資本コストの経年・規模分析

最後に、計算した理論的な資本コストに基づいて、築年数と住宅規模でシミュレーションしていきます。

まず、築年数でシミュレーションした結果が下図です。



グラフを見てみると、持ち家・貸家ともに、築20年を超えると資本コストが急激に上昇しています。「築年数が20年を超えると急激に資本コストが高くなる」ということは、築20年を超えても家賃はそれほど下がらないのに対して、価格は急速に低下することを意味しています。

この原因は2つ考えることができます。

  1. 建替の可能性に関する不確実性
    マンションに入居当初はマンション内での持ち家比率が高く建替も可能と考えていても、建替が困難であることが明らかになってくると中古住宅の資産価値(売買価格)が低下する可能性があります。

  2. 建物の大規模修繕の問題

    一般的な修繕の周期は約12年といわれており、今回の推定で資本コストが急激に上がった時期は、2回目の修繕タイミングとおおよそ合致しています。

    背景として、マンションが購入されやすいように修繕積立金を低く設定した結果、修繕積立金が十分に貯まらず、2回目の修繕時に資金不足に陥り、物件の質が維持できない状態に陥っている可能性があります。


次に、住宅規模でシミュレーションした結果が下図です。



グラフを見てみると、住宅規模が24㎡を超えるまでは貸家の資本コストの方が低く、それ以上の規模であれば持ち家の資本コストの方が低くなりました。



Conclusion

分譲用として建てられたマンションについて…​​​​​​​

  1. 築年数が20年を超えたマンションは分譲でも賃貸でも市場に出てこない、もしくは市場に出ても売れない可能性がある。

  2. 住宅規模24㎡以下の物件は住宅を貸家として運用した方が、24㎡を超える物件では中古市場で売却した方が、資本コストは安い。




※推定理論に関する詳細等は、下記論文をご参照ください。
 生田遼羽・浅田義久[2019]「中古・賃貸マンションの資本コスト(表面利回り)の経年・規模分析」『日本不動産学会学術講演会論文集35号』


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担当:生田
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