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54,000戸超の供給過剰だった?〜2020年の東京都賃貸住宅市場〜

藤井和之
株式会社タス

 

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、東京都への人口流入が減少しています。

 東京23区は、2019年の人口増加が83,991人だったのに対し、2020年は2,154人と激減しまし た。1月〜3月までは例年通り約28,000人の増加でしたので、4月以降に約26,000人減少したことに なります。一方で、東京市部は2019年の11,215人に対し、2020年は7,295人と減少幅は小幅にとどまっています。

 住宅市場に影響する世帯数の増加幅については、東京23区では2019年が78,872世帯の増加であったのに対し、2020年は22,381世帯の増加にとどまっています。こちらも3月までは約30,000世帯の増加でしたので、4月以降に約7,500世帯減少したことになります。東京市部では、2019 年が 21,653世帯の増加であったのに対し、2020年は20,453世帯の増加とほぼ昨年並みでした。東京都全体では、2020年は42,834世帯の増加で、2019年の約4割にとどまりました。


住宅売買市場

 これに対して、2020年の東京都住宅売買市場はどのような状況だったでしょう。

 まず新築マンションについて、不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向 - 2020年のまとめ - 」によると、東京都で販売された新築マンションは14,153戸(東京23区…10,911戸:前年比▲20.6%、東京市部…3,242戸:同+27.8%)です。このうち契約に至ったのは10,886戸(東京23区…8,863戸:累積契約率81.2%、東京市部…2,023戸:同62.4%)でした。

 次に中古マンションについて、東日本不動産流通機構(レインズ東日本)「月例マーケットウォッチ」によると、東京都で成約した中古マンションは18,654戸です。成約数は、最初の緊急事態宣言が発出された4月と5月に大きく減少しましたが、10月と11月に繰上需要で盛り返した結果、前年比▲6.5%にとどまりました。

 戸建市場はどのような状況だったでしょうか。同じく東日本不動産流通機構「月例マーケットウォッチ」によると、東京都の新築分譲戸建ての成約数は1,555戸(前年比+9.5%)、中古戸建の成約数は3,670戸(同▲2.1%)です。一方で、国土交通省「住宅着工統計」によると2020年の東京都の持家(注文住宅)着工数は15,258戸(前年比▲3.7%)にとどまりました。テレワークを導入する企業が増加したことから戸建が人気となったという記事を多く見かけますが、東京都内ではいまひとつ盛り上がりに欠けていたようです。

 以上をまとめると、2020年の住宅売買市場の成約数合計は50,023戸となり、これだけで東京都で増加した世帯数を超えてしまっています。


 さて、これらの住宅を購入した世帯のうち、住み替え前に賃貸住宅に居住していた世帯はどのくらいいるでしょうか。

 国土交通省「令和元年度 住宅市場動向調査報告書」によると、住み替え前に民間賃貸住宅や社宅・寮・公務員住宅、公営住宅、都市再生機構または公社などの賃貸住宅に居住していた割合は、新築住宅購入者の70.4%、中古住宅購入者の64.8%、注文住宅購入者の64.3%です。これを用いることで、2020年の東京都の住宅購入者で、住み替え前に賃貸住宅に居住していた世帯は33,036世帯であったと推計できます。(図1)

 したがって、2020年に東京都で増加した世帯のすべてが賃貸住宅に入居したと仮定しても、賃貸住宅の需要は9,798世帯しか増加しなかったことになります。


図1 住宅・土地統計調査と管理会社等が保有するデータの違い

出展:下記をもとに株式会社タスが作成
不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向-2020年のまとめ-」
東日本不動産流通機構「月例マーケットウォッチ」
国土交通省「住宅着工統計」「令和元年度 住宅市場動向調査報告書」


賃貸住宅の供給状況

 一方で、賃貸住宅の供給はどのような状況だったでしょうか。

 国土交通省「住宅着工統計」 によると、東京都における貸家着工数は2019年が64,261戸、2020年が64,602戸でした。賃貸住宅が着工されてから供給までタイムラグが存在しますが、過去2年間着工数がほぼ同じペースであることを考慮すると、2020年東京都で市場に新規供給された賃貸住宅は64,000戸強であったと考えられます。

 これに対して前述したように需要の増加は、最大でも10,000戸弱ですので2020 年東京都賃貸住宅市場(図2)は、54,000戸超の供給過多だったことになります。1棟100戸の賃貸マンション540棟分超です。


図2 2020年の東京都における賃貸住宅の供給状況


3層に分かれる日本の賃貸住宅市場

 ところが、これだけ供給過剰になっているのにかかわらず、現在のところ東京都の賃貸住宅指標への影響はほとんど見られません。

 なぜでしょうか?答えは、日本独特の賃貸住宅市場の構造にあります。

 需要に比較して供給量の多い日本の賃貸住宅市場は、大きく3層に分かれています。


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藤井 和之
藤井 和之
株式会社タス 主任研究員 兼 新事業開発部長 [経歴]東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了 清水建設株式会社入社。その後不動産投資分析ソフトの世界標準であるARGUSを発売するRealm Business Solutions(現ARGUS Software)、不動産ファンドの日本レップ(現Goodman Japan)を経て2009年より現職。 賃貸住宅の投資分析に用いることができる指標が少なく苦労した経験から、賃貸住宅の空室率や募集期間、更新確率等の時系列指標を開発。それらの指標と公的統計を用いた賃貸住宅マーケットの分析を行っている。
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