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比較優位って知ってますか? −クボ君やオオタニさんが経済学に進んでも一流だったかも

経済学からみた不動産市場(第31回)

浅田義久
日本大学経済学部教授


 

 不動産関係ではありませんが,ちょっと興味深い話題があります。

 COVID-19のワクチン開発で,日本の製薬会社がなぜ開発できないかとテレビでやっていました。企業規模が小さいとか,被験者が少ないことや基準が厳しいなど様々なことが指摘されていましたが,経済学で考える際には比較優位という考え方が重要です。その他にも,農産物の自給率を上げなければいけないとか,今回のコロナ渦ではマスクが不足していたときになぜ,日本で作られないのかという疑問も出ていました。以下では,簡単に比較優位を説明していきます。


 いま,何でもできるクボ君,オオタニさんとあまり何もできないアサダ君がいるとします。3人がサッカー,野球,教員をやったときの給与は下表だとします。

表 3人の給与

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 本来は生産性で分析するのですが,それより給与の方がわかりやすいでしょう。これをみると,サッカーと野球はクボ君が最も秀でており,教員はオオタニさんが秀でていることがわかります。で,アサダは何もできない。これは絶対優位という考え方です。

 ところが,各々何を職業にするかというとクボ君はサッカーで,オオタニさんは野球,アサダ君は教員ということになります。これが比較優位で各人が最も生産性が高い(給与が高い)職業に就きます。これからみると,世の中の人は必ず何かの職業に就くことができることになります。


 さて,次に,国の比較優位を考えてきます。

 1国の比較優位は生産額のうちどのくらい輸出しているか(輸出比率)で検討します。まず,日本の輸出入についてみてみましょう。日本は貿易立国で,年々国際化も進んでいるといわれていますが,純輸出(輸出-輸入)のGDP比率(下図純輸出比率)は1985年頃をピークに徐々に低下しています。輸出比率は近年上がっていますが,それほど顕著なものでもありません。

図 日本の輸出比率,純輸出比率の推移

出所)内閣府『国民経済計算』


 比較優位に入る前に,もうひとつ日本の貿易に関する間違った常識をみてみましょう。

 日本は貿易に依存しており,貿易立国だという常識です。下図は横軸に人口,縦軸に2013年~2017年の平均輸出依存度(上図のSNA統計と輸出の定義が違っています)をみたものです。当然,国の規模が大きくなれば国内で多様な産業を持つことが可能になりますので貿易依存度は下がっていきます。図から日本が,特別に貿易依存度が高いわけではないことがわかります。

図 日本の輸出比率,純輸出比率の推移

出所)総務省統計局『世界の統計2021』​​​​​​​


 ついでに,農作物の自給率が低く,食糧自給率を上げるようという常識についてもみていきましょうね。これも統計データのミスリーディングで確かに2020年のカロリーベースの食糧自給率は37.8%で,2030年の目標が53%となっています。

 ところが,2020年でも生産額ベースでの食料受給率は66%です。カロリーベースの食糧自給率を上げろってことは,高カロリーの食品を国内で製造しろってことですが,これは農家に儲けるなってことではないかな?なぜ,カロリーベースの食糧自給率を上げる目標を掲げているのは全く理解できません。都市農業に関してもどこかでやらないと,ですね。


 では,比較優位の話に戻ります。

 非常に簡単にいうと,GDPに占める純輸出はマクロバランスで決まりますので,各産業の競争力では決まりません。マクロバランスは住宅市場にも関係しますので,これもいつかはお話ししなければ。そして,純輸出は比較優位で決まりますので,国内の各産業で比較優位がある産業,ようするに儲かる産業が輸出することになります。下図は,日本の比較優位産業の推移をみたものです。比較優位産業は他国に輸出するはずですから,生産額に占める輸出額を考えます。縦軸にその輸出比率,横軸には売上高に占める研究費(研究集約度)を取っています。

 これをみると,1975年から2015年まで比較優位産業がほとんど変わっていないことがわかります。私が学部の頃は加工組み立て型4業種(輸送機械,精密機械,電気機械,一般機械)といわれていましたが,今もこの4業種(2015年から中分類から精密機械がなくなりました)の比較優位は高いままです。やや変化があったのは非鉄金属と化学製品の比較優位が上がったことです。今回問題になっている医薬品製造業の比較優位は1975年から40年経ても低いままです。さて,横軸に研究集約度を取ったのは,今から40年前に日本の比較優位産業は研究集約度が高い加工組み立て型製造業と習ったからです。

 さてさて,それをみると,今でもその傾向がみられますよね。医薬品製造業は研究集約度が他の産業より顕著に高いのですが,世界的な医薬品製造業と比較すると低くなっています。

図 日本の比較優位産業の推移

出所)輸出比率は内閣府『産業連関表』研究費は文科省『科学技術白書』

図注)医薬品製造業の研究集約度は()内数値


 長々と書きましたが,人々の比較優位は各人の中で何が儲かるかという各個人の問題であると同じように,日本の比較優位は日本の国内産業の中で何が儲かるかで決まってくるため,別に,日本の製薬業や農業の生産性が他国より劣っているわけではなく,医薬品製造業を増やすより比較優位があり儲かる加工組み立て型製造業に特化しているだけです。

 このように言うと,マスクは日本で作るようになったというかもしれませんが,それも比較優位で簡単に説明がつきます。マスクの需要が増えたのでマスクの価格を上昇し,日本での比較優位が上がっただけです。価格が落ちれば国内で作らなくなります。

 問題の製薬企業ですが,世界の売上げTOP10に日本企業では武田薬品工業だけが入って,その他は米国が4社,スイスが2社,イギリスが2社,フランスが1社です。ドイツは入っていないんですね。調べていませんが,スイスは製薬業に特化しているのでは。


 さて,比較優位の例で使いましたが,クボ君やオオタニさんが経済学に比較優位を持って無くてホントに良かったと思います。


浅田 義久
浅田 義久

日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済

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