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コロナ禍が不動産市場に及ぼす影響

7割が繁忙期にマイナスの影響があったと回答
〜不動産市場アンケート(2021年3月)結果報告


藤井和之
株式会社タス


株式会社タスでは、新型コロナウイルス感染拡大や東京オリンピック等が2021年度の不動産市場に及ぼす影響についてアンケート調査を実施しました。アンケート集計結果について、簡単ではございますがご報告いたします。


調査期間
2021年3月18日〜27日
調査方法
メールによるアンケート送付
有効回答数
174名
(不動産:71%、金融:10%、その他(シンクタンク、コンサル等):19%)



もくじ[非表示]

  1. 1.東京23区への人口流入減少
  2. 2.繁忙期への影響
  3. 3.需要の変化
    1. 3.1.地方・郊外への移住
    2. 3.2.学生向け賃貸住宅と企業の借り上げ住宅
  4. 4.財政出動の影響
  5. 5.東京オリンピック開催の影響
  6. 6.2021年の不動産市場の見通し
  7. 7.不動産市場にとってのリスク
  8. 8.賃貸住宅に対する融資態度
  9. 9.まとめ
  10. 10.ダウンロード(PDF)


東京23区への人口流入減少

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で2020年の東京23区への人口流入は、前年比で約▲80,000人と大幅に減少しました。また、世帯数の増加幅も前年比▲約55,000世帯となりました(※ 賃貸住宅市場レポート 2021年2月 参照)。この影響について5段階で訊きました。



結果として、全体の94%に何らかの影響があり、うち48%は大きな影響があった(影響度4以上)と回答しています。

「どのような影響があったか」という設問に対しては、需要の減少(63%)が最も多く、次いで価格の下落(19%)とマイナス面の影響を指摘する回答が多く寄せられたのに対し、価格の上昇(5%)需要の増加(3%)という回答もあり、東京への人口流入減少の恩恵を受けた地域もあったことが判ります。

繁忙期への影響

次に、2021年の繁忙期に対するコロナ禍の影響について同様に5段階で訊いたところ、97%が何らかの影響を受けており、うち56%は大きな影響があった(影響度4以上)と回答しています。



影響を受けた内容のうち上位の項目は、需要の減少(51%)価格の下落(19%)でありと前問と同様でしたが、需要の減少については若干割合が減少しています。

これは、第1回の緊急事態宣言の対象地域が全国であったのに対し、第2回の緊急事態宣言の対象地域が限られていたことが要因であると考えられます。また、第2回目の緊急事態宣言下では、第1回ほど深刻な人流の停止は起こりませんでした。 これが価格の上昇(11%)需要の増加(10%)に影響したと考えられます。

需要の変化

新型コロナウイルスの感染拡大により不動産市場はどのように変化していると、市場関係者は受け止めているのでしょうか。

そこで、

  • テレワークを導入する企業が増加したことによる地方・郊外移住の需要
  • 多くの大学がオンライン授業となったことによる学生向け賃貸住宅の需要
  • 景気が悪化したことによる企業の借り上げ住宅の需要

の3点について訊きました。


地方・郊外への移住

地方・郊外への移住については、増加(10%)やや増加(54%)と6割超の方が増加していると回答しています。一方で、2020年「不動産の日アンケート」結果(全国宅地建物取引業協会連合会)によると、2020年に関東で住み替えを実施・検討した方は全体の9.2%、うち都市部から郊外は20.3%です。 都市部から郊外へ移住した人は全体の0.6%、検討した人は1.2%にとどまっていることから、現状では問い合わせが増加しているだけの可能性があります。

学生向け賃貸住宅と企業の借り上げ住宅

学生向け賃貸住宅と企業向けの借り上げ住宅については、ほぼ同じ傾向を示しており減少(18%) やや減少(47%)と6割超の方が減少していると回答しています。

2022年卒大学生のライフスタイル調査(採用サポネット)によると、2020年度は理系:週2.9日(2019年度は4.6日)、文系:週1.2日(同3.8日)しか登校できていません。関東では特に登校日数が少なく、理系:週2日、文系:週0.6日、つまり2週間に1日程度しか登校できなかったことになります。この状況が学生向け賃貸住宅の需要感に反映されていると考えられます。各大学は、2021年度は対面授業を増加させると表明していますので、今後学生向け賃貸住宅市場は好転する可能性が高いと思われます。

前述した通り、2020年の人口移動は東京23区の一人負けの状態でした。これに対して、北海道や宮城県・大阪府・広島県・福岡県などの大企業の拠点支店が所在する県の人口流入は増加しており、他地域よりも感染が拡大しておりテレワークが必要な東京都から、対面で仕事を行いやすい拠点支店に人員を配置する動きが企業にあったことを示唆しています。これが借り上げ住宅の需要減少の要因と考えられます。


財政出動の影響

各国の政府はコロナ対策として、大規模な財政出動や金融緩和を行っています。これにより大量の投資マネーが金融市場に流れ込み、現在の株価上昇の要因となっています。

コロナウイルス感染拡大初期から、株式市場と同様に不動産市場に対しても投資マネーの流入とそれによる不動産価格の上昇を期待する声がありました。一方で、REITについては株式市場に対して価格の戻りが緩慢で力強さに欠けるという実態もあります。そこで、市場関係者に今後の不動産化価格と投資マネーの流入について訊きました。



投資マネーについては、上昇(20%)やや上昇(44%)と6割超の方が増加すると考えています。一方で、不動産価格については「上昇する」と回答した方が4割弱(上昇(6%)やや上昇(32%))であり若干控えめな数値となっています。これは、設問の対象範囲が広かったことが影響していると考えられます。投資マネーに対応する大型物件に関しては上昇するが、一般向けの物件については横ばいで推移するということでしょう。

また、併せてJ-REITの価格は今後どのように推移するかについても訊いてみたところ、上昇基調(34%)下落基調(29%)わからない(37%)と回答が3分されました。



予測の難しさが垣間見られる結果で、REIT価格の戻りが緩慢な理由はこの辺りにありそうです。

東京オリンピック開催の影響

大きな経済効果を期待されていた東京オリンピックですが、新型コロナウイルスの感染拡大がグローバルで継続しており、またワクチン接種が行き渡るには相当な期間を要することから、海外からの観客受け入れの中止など縮小を余儀なくされています。現在の状況で、不動産市場にどのような影響があるかを訊ききました。



プラスの影響があると回答した方は14%、一方でマイナスの影響があると回答した方は8%でした。最も多かったのが不明(34%)次いで影響なし(31%)です。 海外からの観客受け入れの中止に言及した意見も約1割強(インバウンドなければ影響なし(7%)インバウンドなければマイナス4%))ありました。

2021年の不動産市場の見通し

以上を踏まえて、2021年の不動産市場がどのように推移するか見通しを訊きました。



約半数の方は、横ばい(51%)で推移すると予測しています。ワクチン接種の進行に応じて市場が回復すると考えている方が約4分の1、うち2021年上期から回復に転ずると予測する方が8%、下期から回復に転ずると予測されている方が15%でした。一方で、悪化する(27%)と考えている方も約4分の1でJ-REIT価格の予測と同様に先行きの不透明さが伺えます。

不動産市場にとってのリスク

新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえて、事業継続計画(BCP)におけるリスクとして感染症を挙げる企業が増加しました。そこで、不動産市場にとって最もリスクだと考えるものについて訊きました。



感染症と回答した方は意外に少なく7%にとどまりました。最も多い回答は、国内景気(48%)次いで自然災害(36%)であり、この2つで8割超を占めています。これ以外の回答として、地政学的問題(3%)人口減少(2%)がありました。

賃貸住宅に対する融資態度

金融庁考査の厳格化やスルガ銀行の不正融資問題などをきっかけにして、2018年から金融機関の賃貸住宅向け融資は硬化しています。このため賃貸住宅の着工数は、コロナ前から減少傾向で推移しています。コロナ対策で実施されている財政出動により、賃貸住宅への融資態度は変化があったかを訊きました。



硬化(11%)やや硬化(34%)と4割強の方が、融資態度は硬化していると回答しました。また横ばいと回答した方も38%でした。回答者を金融機関の方に絞っても硬化(6%)やや硬化(41%)横ばい(41%)とほぼ同じ結果となりました。財政出動下においても、賃貸住宅向け融資態度は引き続き硬化しているようです。

続いて、融資態度が軟化するタイミングについて訊きました。



軟化しない(24%)時期不明(31%)と半数以上が、当面は融資態度の軟化はないと考えています。一方で、21年度上期(6%)21年度下期(6%)と21年度中に軟化すると考えている方が1割強、コロナ後に軟化すると回答した方が3割弱でした。回答者を金融機関に限っても傾向はほぼ同じでしたが、軟化のタイミング が21年度上期(18%)時期不明(24%)であり、全体に比較して融資態度の軟化に前向きであることが判ります。

まとめ

2月から日本においてもワクチン接種が開始されました。接種が進んでいる英国の状況から、今後日本でも接種率増加に伴い感染拡大が収まってくることが期待されます。ただし、世界中でワクチンの争奪戦が行われているため、収束までには相当の時間を要する見込みです。

コロナ禍で、人口移動の変化やテレワーク導入率の向上など様々な動きがありました。欧米では、厳しい規制が行われた影響で、大都市部のオフィス市場や住宅市場が影響を受けているとの報道があります。日本では、多くの企業が既存オフィスとテレワークの併用での対応を考えていることから市場の変化は限定的です。コロナ後には、東京23 区への人口流入も回復する可能性が高いと思われます。

しかしながら、感染収束までには複数回の拡大の波が到来する可能性があります。これらを経て、コロナ後の企業方針がどのように変化するかが、今後の不動産市場の変化のカギとなるでしょう。

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藤井 和之
藤井 和之

株式会社タス 主任研究員 兼 新事業開発部長 [経歴]東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了 清水建設株式会社入社。その後不動産投資分析ソフトの世界標準であるARGUSを発売するRealm Business Solutions(現ARGUS Software)、不動産ファンドの日本レップ(現Goodman Japan)を経て2009年より現職。 賃貸住宅の投資分析に用いることができる指標が少なく苦労した経験から、賃貸住宅の空室率や募集期間、更新確率等の時系列指標を開発。それらの指標と公的統計を用いた賃貸住宅マーケットの分析を行っている。

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