経済効果って何? −だから経済学は嫌われるんでは
経済学からみた不動産市場(第34回)
浅田義久
日本大学経済学部教授
新聞等で経済効果ってよく見ますが,皆さんはどのように捉えているでしょうか。
今回のコロナ渦でも緊急事態宣言の延長やオリンピック・パラリンピックの中止どれほど経済損失が出るかなどが報道されました。
このような経済効果はどのように計算されているんでしょうか。各報道では計算の内容まで記されていないものが多いのですが,一般的には産業連関表を用いた経済波及効果を経済効果と言っているようです。
例えば,今回のコロナ渦で外食や旅行など消費がどの程度減少するかを試算します。次に,これらの消費財を製造するのに原材料等がどの程度必要かを産業連関表で計算します。産業連関表は日本では5年に一度改訂され,産業間の取引関係を調査し,それを基に作成されネットで開示されています。
どのように計算されるかを簡単にお話しします。
例えば,飲食店で1,000円の生産がされた場合に,どのような業種から中間投入されているかが分かります。すると,この例えば牛肉が200円投入されているとされ,次に牛肉200円生産されるためには何が投入されているかを計算します。これらを順次計算し,飲食店の生産額1,000円によってどのような産業に波及しているかが分かるようになります。
何度かやると気づきますが,どのような産業への最終需要増加でも産業連関分析で経済波及効果を求めるとだいたい同じような値になってしまいます。
ただし,今回のように外食産業の売上げ減少が他の産業のどこに波及しているかを分析し,それら業種に補償などの対応をするには非常に有用です。
産業連関分析は,昔は非常に大変でした。今から40年ほど前の大学院生時代に上智大学の先生に指示されて経済効果分析を行ったんですが,当時は取引表の逆行列を求める必要があり,8ビットのパソコンで吐き出し法って方法で求めました。パソコンが寝ずに5日間ぐらい稼働していました。その後,民間のシンクタンクに就職したところ,大型コンピュータで計算させましたが,今やパソコンでExcelを使えば1秒もかかりません。逆行列表も政府が公表していますし。皆さんやってみてください。一般的な産業連関表は総務省で出していますし,各都道府県の産業連関表もあります。
国交省では建設分野や運輸部門を中心とした産業連関表を作っていますので,不動産業の方は大規模な都市開発がどのように影響するかを分析してみてはいかがでしょうか。
この経済波及効果を試算するために用いる産業連関表にはいくつかの問題があります。
まず,産業連関表はレオンティエフ型生産関数を前提としており,規模の経済もないため,飲食店で500円の生産と10.000の生産が同じ効率性ということになります。また,労働と資本の代替も考えていないので失業もあきらかに過大になります。また,中間投入率が高いと経済波及効果が高くなりますので,付加価値率が高いと逆に低くなってしまいます。
では,これらが緊急事態宣言の延長による経済損失なのでしょうか。例えば,あなたの家計で外食は旅行を諦めたとき,他の消費は一定でしょうか。いわゆる,巣ごもり需要といわれている消費に変えた場合はこの巣ごもり需要の増加による生産高の増加は入れる必要があります。これは単に支出先が変わっただけです。これらもちゃんと計算しているかも明記すべきです。
本来,重要なのは生産性が上がるかと言うことだと思います。オリンピックの縮小でも単に消費が減ることによる影響だけではなく,様々なインフラ整備がされているので,この生産性への影響を検討すべきです。