住宅消費税は必要 −なんで住宅買うと消費税を課税するの?

経済学からみた不動産市場(第35回)

浅田義久
日本大学経済学部教授


 本年の1月に私の都市経済学の指導教員であった山崎福寿上智大学名誉教授が亡くなり,先生の論文を見直している中で色々な問題をまだ実証していなかったことを痛感しました。今後も少しずつお話ししていきます。

 山﨑先生が指摘していたのは税制の問題が多く,特に近年は相続制に関するものが多かったのですが,まず今回は住宅消費税に関してお話しします。


 消費税は消費する財・サービスに対する課税です。経済学では課税の議論をするとき,その中立性に注目します。中立性とは,課税によって資源配分(どのような資源を何に使うか)が変わらないというものです。例えば,所得税を課税すると働かなくなる可能性があります。これは各人の時間という資源配分を歪めますので非中立的です。追って,お話ししますが,土地に対する固定資産税は課税方法によっては中立的になります。

 さて,中立性を保つには、全消費財・サービスに同率課税をする必要があります。現状のように,飲食料品が軽減税率で,外食が標準税率で課税すると当たり前ですが,外食が少なくなり中立的ではありません。中立的にするには,住宅サービスについても家賃に課税する必要がありますが,現状では購入時の金額に課税しています。まあ,持ち家の帰属家賃の評価が困難であるため購入時に課税されているようですが。

 この住宅消費税が住宅の流通を阻害する要因として以下の4つがあげられます。

 まず,住宅消費税は新築住宅の販売価格へ一括の課税がされており住宅流通を阻害している可能性があります。当たり前ですが,家計は初期に消費税分だけ多く必要になり,普通の家計ではローンの制約等があり最適な住宅投資が達成できませんよね。

 次に,消費税は住宅サービス利用時の家賃に課税されるものですから,現在から将来にわたる家賃に同率で課税する必要があります。そのためには,適切な割引率で割り引かなければならなりません。将来30数年間にわたり,割引率を計算するなんてほぼ不可能です。

 また,これは上記にも関係しますが,消費税が購入時に課税しますので,必要以上に長く住宅を保有するインセンティブを持ってしまいます。その結果、建て替えや更新投資が過小になる可能性があり,空き家問題に繋がってしまいます。

 最後に,住宅サービスは建物と土地との結合生産物なのに,建物にのみ課税されている点です。これでは,家賃への課税になっていません。課税の帰着は住宅の供給と需要の価格弾力性を計る必要がありますので,これも現状ではほぼ不可能です。

 このように,消費税を住宅サービスに効率的に課税するのは理論的,技術的に困難であり今後様々な実証研究が必要になります。また,このように理論的にも問題が多い消費税を導入するために住宅ローン減税制度を拡充するとより多くの問題が出てきます。この点も追ってお話しします。


 私と山崎先生は多くの共同研究をやってきましたが,主に理論分析は山﨑先生,実証分析は私が担当してきました。近年はより若い門下生が実証分析を担当してきましたが,まだまだ残った課題が多くあることが分かりました。定年まであと2年になって,研究はそろそろ手じまいにしようと思っていましたが,今後は私が理論的分析を,実証分析はタスの研究員達でやっていきたいと思います。謹んでご冥福をお祈りいたします。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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