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意外と知らない空室率のはなし

藤井和之
株式会社タス


単純に比較できない空室率

 日本では、空室率は5%という根拠のない値(いわゆるマジックナンバー)が様々な状況で用いられてきました。8%や10%という値も使われているようです。

 これは、日本の不動産業界においてストックや空室に関する月次の統計が公開されていないことに起因しています。最近は、いくつかの企業や団体がオフィスや賃貸住宅等の空室率を発表していますので、それらの値を比較して空室率を設定することも多いようです。

 しかし、発表元によって空室率の算出方法やデータが異なるため、空室率同士を単純に比較することができないということは意外と知られていません。


 空室率の代表的な算出方法としては、

  • 戸数ベース [空室 ÷ 総戸数]
  • 賃料ベース [空室賃料 ÷ 満室想定賃料]

  • サブリースベース賃料 [1 – サブリース料 ÷ 受取賃料]

  • 面積ベース [空室面積 ÷ 総面積]

など、様々な方法があります。

 それぞれの算出方法で、空室率は異なる(図1)ので、複数の空室率データを比較する際には、最低限それぞれの空室率がどの方法に基づいて算出されているのかを確認する必要があります。算出方法が異なる空室率同士、例えば戸数ベースの空室率と面積ベースの空室率を比較しても意味がありません。

図1 算出方法による空室率の違い


 また、使用しているデータ属性の違いによって算出結果が大きく異なる場合もあります。

 例えば、サブリース業者や管理業者が発表している空室率と総務省の住宅・土地統計調査から算出した空室率には大きな隔たりがありあます。これは、住宅・土地統計調査に含まれる賃貸住宅データが全ての属性のデータを網羅しているのに対して、サブリース業者や管理業者等が所有している賃貸住宅データは、特定の属性のデータを含んでいないことが原因です。

 なお、付け加えるとREINSや住宅情報提供会社(アットホームやSUUMO、HOME’Sなど)に登録されている賃貸住宅データには、一部の属性のデータしか含まれていません。これらについては、次項で詳しく解説します。


 このように使用している算出方法や使用しているデータの属性が異なることを、不動産業界においてすら多くの人が認識していません。これが「何が正しい空室率か」という議論がされる原因となっています。

 実は、正解はいたってシンプルで「一定の算出ルール」で「一定の属性のデータを用いて」算出されている空室率は、全て「正しい空室率」ということができます。

 ただし、「算出ルール」と「使用データの属性」により、算出される空室率の性格は変わってきます。したがって、その空室率が「何の空室率を示しているのか」を利用者が正しく判断し、利用できるように「算出ルール」と「使用データの属性」を明示することが重要となります。

 ところが、「算出ルール」と「使用データの属性」が不明確、もしくは表示されていても利用者が認識していないことが多いため、「A社の空室率は、他社の空室率とかい離しているため正しくない」「住宅・土地統計調査から算出した空室率は過大である」など、それぞれ空室率が意味するものを考慮していない見当違いの議論が行われることになるのです。ましてや、データの裏付け無しに主観のみで行われる「この空室率は高すぎる、低すぎる」などの議論には全く意味がありません。


 今後の賃貸住宅市場を読み解く上では、発表されている空室率が何を示しているのかを客観的に認識し、賃貸住宅市場の現状を正しく認識することが重要です。


入手可能なデータのみを使用すると空室率が低くなる

 本項では、サブリース業者や管理業者、REINS、住宅情報提供会社に登録される賃貸住宅データと住宅・土地統計調査の賃貸住宅データの違いについて解説いたします。


 賃貸住宅のオーナーが不動産会社に空室へのテナント付けを依頼する場合、成功報酬である仲介手数料が必要となります。さらに、不動産会社に対する広告料の支払いも慣例化しています。また、不動産会社や賃貸住宅管理会社に所有する賃貸住宅の運営管理を委託している場合は、賃貸住宅オーナーは管理会社に管理運営費用(プロパティマネジメント費)を支払う必要があります。


 当然ですが、テナントが入居するまでは空室からは、収入を得ることができません。

 賃貸住宅オーナーに資金的な余裕がある間は、不動産会社や管理会社にテナント付けを依頼することが可能です。この場合、これらの賃貸住宅データは、管理会社やREINS、住宅情報提供会社などに登録されることとなります(図2-A【管理物件データ】)。

 一方で、空室で収入が減少したため借入金の返済に窮するなど賃貸住宅オーナーに資金的な余裕がなくなった場合は、不動産会社や管理会社にテナント付けを依頼することができなくなります。また、アパート経営の目的が税金対策であるため空室があっても問題視していないなど、資金的に窮していなくともテナント付けを依頼する必要性を感じていない賃貸住宅オーナーもいるでしょう。このような賃貸住宅データ(図2-B【経営難等物件データ】)は、管理会社やREINS、住宅情報提供会社などに登録されません。結果として、管理会社や不動産会社などが入手可能なデータに経営難等物件データが含まれることはありません。

図2 住宅・土地統計調査と管理会社等が保有するデータの違い


 また、サブリース契約の場合も同様で、賃貸住宅オーナーがサブリースの条件に合意することができている限りはサブリース契約が継続しますので、賃貸住宅データはサブリース業者のデータに登録されることとなります(図2-A【管理物件データ】)。

 しかし、サブリース条件の変更に賃貸住宅オーナーが合意できなかった場合はサブリース契約が解除となり、その賃貸住宅データはサブリース業者のデータから削除されます。賃貸住宅オーナーに他の不動産会社などにテナント付けを依頼する余力がない場合や空室を埋める必要性を感じていない場合は、この賃貸住宅データが経営難等物件データになります。つまり、サブリース業者が入手可能な賃貸住宅データにも経営難等物件データは含まれてこないのです。


 このように業務上で取り扱われないことから経営難等物件データの存在は、不動産業界でもあまり認識されていません。入手可能なデータは、比較的優良な物件データのみです。

 これが「募集をしなくなった賃貸住宅は、全て満室稼働である」という誤解を生じさせている原因となっています。


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 レポートでは、コラムで解説した管理物件データをさらに満室稼働物件データ募集中物件データに細分化して解説いたします。また、「満室稼働物件データ経営難等物件データはどちらが多いのか」についても検証しています。​​​​​​​

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レポート内容(発行日:2019年9月1日)

  • 単純に比較できない空室率
  • 入手可能なデータのみを使用すると空室率が低くなる
  • 満室稼働物件データと経営難等物件データはどちらが多い?
藤井 和之
藤井 和之

株式会社タス 主任研究員 兼 新事業開発部長 [経歴]東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了 清水建設株式会社入社。その後不動産投資分析ソフトの世界標準であるARGUSを発売するRealm Business Solutions(現ARGUS Software)、不動産ファンドの日本レップ(現Goodman Japan)を経て2009年より現職。 賃貸住宅の投資分析に用いることができる指標が少なく苦労した経験から、賃貸住宅の空室率や募集期間、更新確率等の時系列指標を開発。それらの指標と公的統計を用いた賃貸住宅マーケットの分析を行っている。

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