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コロナ後の首都圏住宅市場の見通し

藤井和之
株式会社タス


 日本の新型コロナウイルスのワクチン接種が進行しています。本稿執筆時点(2021年11月中旬)で ワクチン接種率は、1 回目接種が 78.4%、2 回目接種が 75.4%まで進み、先進 7 か国でトップとなり ました。11 月中には希望者全員への接種がおおむね完了する見込みです。最近では、3 回目の接種(ブ ースター接種)や子供への接種の話題も聞こえてきます。

 ワクチン接種率の向上以外の要因もあるかもしれませんが、日本の新型コロナウイルス陽性者数は急激に減少し、9 月 30 日をもって日本全国で緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除されました。ワクチン接種証明(いわゆるワクチンパスポート)を活用し、サービスの提供と安全性を両立する試みも始まっています。一足先に制限解除に踏み切った欧米では、再び陽性者が増加していますので、まだまだ感染収束までは一筋縄ではいかないと考えられますが、それでもようやく出口が見え始めた感があります。

 そうなると気になるのがコロナ収束後の市場動向です。そこで、今回はコロナ後の首都圏の住宅市場の見通しについて考察します。


従業員の動向

 新型コロナウイルスのパンデミックによって外出制限が行われたことから、多くの国でテレワークが急速に拡大しました。日本では、2020年4月〜5月にかけての第1回目の緊急事態宣言下で、多くの従業員がテレワークを開始しました。当初テレワークは新しい働き方として歓迎されており、一時は過半数の従業員がテレワーク継続を希望していました。

 ところが、withコロナが長引くにつれて、従業員の意識が変わってきています。

 ジョーンズ ラング ラサールの「新型コロナウイルスがオフィスワーカーに与えた影響に関するサーベイレポート vol.2」によると、グローバルでオフィスに戻りたいと「強く感じている」従業員は23%、「かなり感じている」従業員は35%であり、合計すると約6割の従業員がオフィスでの勤務を望んでいます。アジア太平洋に絞っても同様(「強く感じている」28%、「かなり感じている」33%)です。また、オフィス回帰希望は若年者ほど顕著でした。(図1)


図1 従業員のオフィス回帰希望
出展:JLL「新型コロナウイルスがオフィスワーカーに与えた影響に関するサーベイレポート vol.2」をもとに作成



 同様の結果が日本における調査でも出ています。SMBC日興証券の「消費者が考えるコロナ後の世界: サービス中心の消費回復を期待」によると2021年5月時点で従業員の約6割がオフィス回帰を望んでいます。 オフィス回帰希望者の割合の増加率は、20〜39歳で顕著です。(図2)


図2 日本における従業員のオフィス回帰希望
出展:SMBC日興証券「消費者が考えるコロナ後の世界:サービス中心の消費回復を期待」から作成


 ただし、日本と海外ではオフィス回帰希望の理由が異なっています。海外では「同僚とのコミュニケーションを行いたい」というのが理由の1位ですが、日本においては「テレワーク環境が不十分であること」が理由の1位として挙げられています。



 このような従業員の希望を反映して、テレワークを利用する従業員の割合が大きく減少しています。

 東京商工会議所の「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」によると、第1回目の緊急事態宣言下には、テレワーク頻度が週に20%以下(1日以下)と回答した人の割合が18.9%でしたが、第2回目の緊急事態宣言下の2021年1〜2月には29.8%に増加、第3回目の緊急事態宣言下の2021年5月には52.4%と、半数以上がテレワーク頻度を落としています。(図3) 欧米各国でもテレワーク率は昨年から大きく減少(図4)しており、現在は15%前後で推移しています。


図3 従業員のテレワーク頻度
出展:東京商工会議所「中小企業のテレワーク実施状況に関する調査」  から作成


図4 世界のテレワーク率推移
出展:日本リサーチセンター「新型コロナウイルス自主調査:2021年最新のリモートワーク・授業実施率は? ~世界15か国・地域調査」から作成


 新型コロナウイルスの感染が収束すると、テレワーク率はさらに下落し10%以下まで減少する可能性が高いと考えられます。テレワークを機に地方・郊外移住が進むとの期待がありましたが、データからはコロナ前の状態に9割がた戻りそうです。


企業の動向

 次は、企業の動向から考察します。

 新型コロナウイルスのパンデミックが始まった後、テレワークを全面的に導入する方針を発表した企業がありました。例えば Twitter 社は、希望する社員は永久にテレワークを認める方針を発表しました。 日本においても、富士通が全面的にテレワークを導入してオフィス面積を削減する方針を発表し、多くのメディアに取り上げられました。 この他、IT 系の企業やスタートアップ企業でテレワーク全面導入に踏み切る動きが見られます。


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レポート内容

コロナ後の首都圏住宅市場の見通し(前篇)…2021年7月31日発行
コロナ後の首都圏住宅市場の見通し(後篇)…2021年8月31日発行

藤井 和之
藤井 和之
株式会社タス 主任研究員 兼 新事業開発部長 [経歴]東京電機大学大学院 理工学研究科 修士課程修了 清水建設株式会社入社。その後不動産投資分析ソフトの世界標準であるARGUSを発売するRealm Business Solutions(現ARGUS Software)、不動産ファンドの日本レップ(現Goodman Japan)を経て2009年より現職。 賃貸住宅の投資分析に用いることができる指標が少なく苦労した経験から、賃貸住宅の空室率や募集期間、更新確率等の時系列指標を開発。それらの指標と公的統計を用いた賃貸住宅マーケットの分析を行っている。
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