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災害リスクと対応の地域差を可視化する

■summary

  • 今後30年間で震度6弱以上の地震が起こる確率が高い場所は、首都圏を含む太平洋側の平野部や北海道東部に偏在している。

  • 不動産に係る地震への備えとして、火災保険の地震保険付帯率を地域別に見ると、近年発生した災害の被災地周辺で特に高くなっている。

  • 地震保険付帯率から見た災害リスク対応の地域差を分析した結果、関東平野部から静岡県にかけて、災害リスクへの対応が不十分な地域が広がっている。


◆はじめに

 2023年は関東大震災からからちょうど100年の節目の年を迎えます。昨今、金融機関をはじめ各企業の災害リスクへの対応は目下の課題となっており、BCP【事業継続計画】の一環として、自社のみならず関連企業の所在地や担保物件のリスク評価についてご相談いただく機会も増えております。

 不動産に関わる災害リスクへの対処として、火災保険やそれに付帯する地震保険に加入することが考えられます。地震保険は、地震の伴う建物の損壊に加えて、津波や火山噴火といった災害による損壊についても補償の対象としています。我が国は世界有数の災害大国であり、日本全国であらゆる自然災害のリスクは存在するものの、その種類やリスクの大きさは地域差があります。今回は、各機関が公表している地震予測確率や、地震保険の付帯率データを基に、各地域の災害リスクへの対応状況について分析を試みます。


◆地震が起こる確率が高い場所は?

 防災科学技術研究所(茨城県つくば市)は、今後30年以内に一定の震度以上の地震が起こる確率を地図で表現した「確率論的地震動予測地図」を公開しています。このデータを用いて、2022年現在の、今後30年以内に一定の震度6弱以上の地震が起こる確率(最大ケース)を日本地図で表現したものが図1になります。震度6弱は、気象庁資料によると「耐震性の低い木造建物は、瓦が落下したり、建物が傾いたりすることがある。倒れるものもある。」とされており、揺れによって直接不動産の躯体に被害を与える可能性がある程度の揺れと言えるでしょう。

 図1から、一般に活断層が多く分布する地域や、地盤が軟弱で揺れが地上に伝わりやすい地域ほど、高い確率となっていることが分かります。エリア別で確認すると、首都直下型地震が想定される首都圏や、南海トラフ地震が想定される静岡県から宮崎県にかけての太平洋側の地域、北海道東部で広範囲に高い確率が分布することが分かります。これらの地域は特に、早めの地震対策が求められます。

図1 今後30年以内に一定の震度6弱以上の地震が起こる確率(最大ケース)


◆不動産に係る地震への備え―地震保険付帯率を地域別に見る

 図2に、損害保険算出機構の公開データから作成した、市区別の火災保険の地震保険付帯率注1を示します。近年に発生した地震の被災地周辺は総じて付帯率が高く、岩手県から福島県にかけての東北地方太平洋側、熊本県などが該当します。また、火山活動が活発な鹿児島県の桜島周辺、南海トラフの津波被害が想定される高知県、宮崎県なども付帯率が高めとなっています。一方、北海道の道央・道北エリアや、山陰、佐賀県から長崎県などの付帯率が低くなっています。

図2 火災保険の地震保険付帯率 (2021年度)


◆地震保険付帯率から見た災害リスク対応の地域差

 想定される地震確率と、地震保険付帯率について地域別に概観しましたが、双方には一定の関係性があるのでしょうか。各々がリスクに見合う対応をしているとすれば、地震確率が高い地域ほど地震保険付帯率も高くなることが想像されますが、実態はどうなっているのでしょうか。

 そこで地震保険付帯率が公開されている全904市区を対象として、地震保険付帯率と、市区単位で算出した地震確率の平均値をそれぞれ偏差値に置き換えました。この地震保険付帯率偏差値から地震確率偏差値を差し引き、偏差値差分としました。偏差値差分を地図に示したのが図3になります。偏差値差分がプラスであることは、地震保険付帯率が高いわりに地震確率が低い―つまり地震の備えに対する意識が高いことを意味します。一方、偏差値差分がマイナスであることは、地震保険付帯率が低いわりに地震確率が高い―つまり地震の備えに対する意識が低いことを意味します。

図3 地震保険付帯率から見た災害リスク対応の地域差

 図2の地震保険付帯率でも示唆されたように、東北地方や熊本県、平成30年に豪雨災害があった広島県など近年の被災地では、地震リスクのわりに地震保険付帯率が高く、防災意識が高いエリアと言えるでしょう。また、鳥海山周辺、磐梯山周辺、鹿児島県や宮崎県といったエリアは、火山噴火の被害が想定されるため、地震リスクのわりに地震保険付帯率が高くなっています。一方、関東平野部から静岡県にかけては、地震リスクが高いわりに地震保険の加入率が低く、災害リスクへの対応が不十分な地域であると言えそうです。関東大震災以降、これらの地域を震源とする人的被害の大きな地震が発生していないことも、災害リスクの認知や行動に影響を及ぼしているのかもしれません。

◆おわりに

 今回は、日本全国の災害リスクとその備えについて、地震確率や地震保険付帯率といったデータを基に考察しました。災害には様々な種類があり、今回取り上げなかった洪水や土砂災害、火山災害といったリスク情報についても、弊社の分析サービス「ANALYSTAS」で取り扱った実績がございます。また、不動産評価サービス「TAS-MAP」には、土地の災害リスクを簡単に調査できる「土地情報レポート」機能もございますので、是非ご活用ください。

 関東大震災から100年を迎える今年こそ、職場や家庭の防災対策を見直す良い機会にしてはいかがでしょうか。  

注1:町・村部のデータは公開されていません。


四釜 想
四釜 想
株式会社タス データソリューション部
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