住民の特徴を「心理学」の手法で分析する ―タワーマンションのある街 編ー
もくじ[非表示]
- 1.タワーマンションはどこに多い?
- 2.住民の特徴と地域差
- 3.【発展編】テクニカルなお話
- 4.おわりに
タワーマンションはどこに多い?
タワーマンション注1の棟数は増加の一途を辿り、近年は大都市圏に限らず、地方都市にまで広がりを見せています(図1)。最近では、2025年完成予定の北海道旭川市初のタワーマンションの最上階の3億5千万円が成約したことが報じられています。(北海道新聞 2023年2月27日閲覧)
図1 タワーマンションの全国分布 (2022年中古マンション売出事例から)
都内のタワーマンションは湾岸地区(晴海、有明など)に多く供給されており、再開発地区(南池袋、大崎など)への建設も目立ちます。同一町内で3棟以上のタワーマンションの売出事例が存在したエリアを「タワーマンションお膝元エリア」と見なせば、全部で58エリアが該当しました。(図2)
図2 東京23区 タワーマンションお膝元エリア
今回は、これらの「タワーマンションのお膝元エリア」に居住する人々にはどのような特徴があるのか、オープンデータを活用して心理学の手法で分析を試みます。
住民の特徴と地域差
就職試験などの適性検査で、複数の項目について「当てはまる・やや当てはまる・あまり当てはまらない・全くあてはまらない」といった段階評価で回答した経験がある方は多いでしょう。回答は、心理学的な統計分析手法によって、性格を特徴づける少数の「因子」にまとめられて、因子に基づきパーソナリティを表す何種類かの「タイプ」の判定がなされ、企業は判定結果をもとに、自社に合う人材であるかどうかの判断材料とします(図3)。
図3 適性検査のイメージ
このような手法を応用し、国勢調査を用いて地域の住民の特徴をとらえる指標を作成し、タイプ別にエリア区分してみましょう(図4)。
図4 エリア指標のイメージ
エリアごとの地域住民の特徴を表す指標として、国勢調査を基に作成した合計8個の指標を用います(図5)。
図5 地域住民の特徴を表す各指標の解説
これらの指標同士の関係について分析した結果を図6に示します。「王道コース因子」「働く女性因子」「エリート因子」の3つの因子は、各指標の特徴をまとめたものと考えていただくと分かりやすいです。
「王道コース因子」:大卒以上の学歴で、持ち家に住み、子育て中の世帯が想定される。 「働く女性因子」:働き盛りの世代で、多くの女性が就労している人が想定される。 「エリート因子」:管理職・専門職といった高年収の職業に従事している人が想定される。 |
図6 指標のとりまとめ
上記の3因子の組み合わせから、「DINKS女性エリート活躍」・「共働きハイクラスファミリー」・「堅実大卒ファミリー」の各3つのタイプ別にエリアを色分けしたものを図7に示します。それぞれのタイプは、地理的に「東京西部」・「湾岸エリア」・「郊外」に対応しているとも言えます。「共働きハイクラスファミリー」は特に、「タワマン文学」に登場する湾岸地区のタワーマンションに住む家族のイメージとも重なります。
「DINKS女性エリート活躍」 |
「働く女性因子」と「エリート因子」が強いエリア。港区や東京西部に多く分布。 |
「共働きハイクラスファミリー」 |
「王道コース因子」と「働く女性因子」が強く、「エリート因子」がやや強いエリア。八重洲や丸の内方面への通勤が便利な湾岸エリアに多く分布。 |
「堅実大卒ファミリー」 |
「王道コース因子」は強いが「エリート因子」が低いエリア。比較的郊外に多く分布。 |
図7 地域の住民の特徴に基づくエリア区分
ここまでを簡単におさらいすると、以下のようなことが分かりました。
- タワーマンションは、3大都市圏を中心に供給が続いており、近年は地方都市にまで広がりを見せている。
- 都内のタワーマンションの供給が多い地域は、湾岸エリアと再開発エリアに大別され、それぞれのエリアにおける住民のタイプはやや異なっている。
- 湾岸エリアは共働きハイクラスのファミリー世帯が多く、東京西部ではエリート層の女性が活躍するDINKS世帯、23区周辺部の再開発地区に供給されたタワーマンションは、堅実な大卒ファミリー世帯が集住している。
【発展編】テクニカルなお話
ここからは、分析の方法について詳細を確認したい方向けに、前項で記載できなかった部分も含めて解説します。
図5に示した各指標間の相関係数を図8に示します。
図8 指標間の相関係数
例えば、専門職割合とタクシー通勤割合の相関が高いなど、データから暮らしぶりが見てとれます。しかし、項目数が多いため、全ての関係性を分析することは困難です。
そこで、心理学の定量的なアンケート調査の分析手法でオーソドックスな「因子分析」を行った結果を図9に示します。分析条件は、スクリー基準で因子数3、回転法はオブリミン回転、因子抽出方法は最尤法としました。
図9 因子分析結果
上位3因子での累積寄与率は0.766と、全体の75%超が説明できたことを示しています。因子の解釈は、図6のパス図も参考に実施しました。図6のパス図から働く女性因子と、エリート因子については一定の相関があり、タワーマンションがエリート女性にとって多忙な生活を快適に過ごすことができる場所と選ばれていることが読み取れます。
因子ごとの因子得点を地図化したものを図10~図12に示します。「王道コース因子」は、湾岸地区や郊外部の再開発地区に比較的多く見られます。「働く女性因子」は、湾岸地区だけでなく、港区・品川区を中心に、交通利便性の高い山手線沿線に多く分布します。「エリート因子」は、港区などの高級住宅エリアや山手線内に多くみられ、湾岸エリアは中程度、郊外部は少なくなっています。
図10 王道コース因子得点マップ
図11 働く女性因子得点マップ
図12 エリート因子得点マップ
因子得点を基に、階層的クラスタリングを実施した結果を図13に示します。この結果から、図表中の線の通りクラスタリング数を3に設定し、図10~図12の結果を併せて3タイプの類型を考察しました。解釈はやや主観に頼らざるを得ない部分がありますが、定量的な根拠をもって説明ができるところが因子分析の優れた点です。
図13 階層的クラスタリング結果
おわりに
今回は、心理学的な分析手法を用いて、タワーマンションのある地域の住民の特徴を考察しました。不動産マーケット分析「ANALYSTAS」では、統計分析手法を駆使したさまざまなデータの利活用方法をご提案させていただいております。ご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。
注1:総階数20階以上のマンションを、タワーマンションと定義した。