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少子化の要因は(1) ー内生性など因果関係が複雑でお手上げですー


経済学から見た不動産市場(第50回)

浅田義久
日本大学経済学部教授

 

 前回は高齢化について,一世代で3歳程度平均余命が伸びただけで,これでは予想外の高齢化といえないだろうとお話ししました。今回は,少子高齢化のもう一つの問題点とされている少子化のお話しです。

 下図は公式にもよく使われる国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口の推移(出生中位死亡中位;https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp )をみたものです。 これをみると,資料が入手できる1995年以降,出生数(図では出生率=出生数/人口)は平成18年推定を除くと毎回下方修正されています。

 ただし,総人口は推定値が上がってきています。平均余命も推定値より上がっているからでしょうか。将来の出生者数を高めに予測するのは政策を維持するためだと穿った見方もあるようですが,40年前に民間シンクタンクで予測屋さんをやっていた私から見ると出生者を長期予想するのは難しくて無理です。

 同図には合計特殊出生率の推移を加えています。よく言われているのが,2006年から2015年まで若上昇したことですが,この要因もどのように考えれば良いか分からないということです。


出所)総務省統計局『国勢調査』『住民基本台帳人口移動報告』,

厚生労働省『人口動態統計』,

国立社会保障・人口問題研究所(2017)『日本の将来推計人口-平成29年推定の解説および参考推計』 

 

 さて,とにかくこのような少子化の要因は何なのか考えていきましょう。この件に関しては,様々な検討がなされていますが,因果関係や内生性を検討していないものもみられます。例えば,近年の日本の出生率と国民負担率の関係を見て,負の相関があり国民負担率を下げると出生率が上がると主張する意見もありました。このように相関だけある事象をあつめると,平均気温やネットの使用率など出生率と相関がある事象はいくつでも出てきます。相関関係と因果関係が異なっており,因果関係の分析は非常に難しいということを理解してください。
少子化の分析は私も専門外です。最近の研究としては『子育て支援の経済学』をはじめとする山口慎太郎東京大学教授の研究が非常に優れていると思います。下記もかなりその分析によっています。

 まず,結婚率が低下したことから考えていきましょう。下図を見ると結婚率は確かに低下しているようです。また,有配偶者出生率を見ると低下どころか上昇しています。これだけをみると,結婚率を上昇させると有配偶者比率が上昇し,全体の出生率も上がるはずです。それで,結婚率を上昇させる施策が検討されています。ただ,これが内生性の問題の一つです。結婚の目的は何でしょうか。現在のように男女の賃金比率の差異が小さく,夫婦の年齢差が小さいと(私が結婚したころは平均2.5歳差でしたが,2015年に1.8歳差です。)入籍によるメリットはあまり大きくありません。その結果,いわゆる“授かり婚”という,出産(あるいは出産予定)後に入籍するという過程を選ぶ人が多くなるはずです。

 では,出生率が低下する要因を経済学的に検討してみます。ここでは,経済学的に分析するのであって,当然それら以外の要因があることは分かっています。まず,出生の効用(メリット)を考えます。王朝モデル(人々は家の存続を望み,その目的を達成するために子に遺産を残す,というモデルで,日本ではなぜか資産を残す家計が多いようなので,王朝モデルが適用できると思います)を仮定し,子孫の効用も自分の効用関数に入ってくるとします。すると,効用は子どもが如何に幸せになるか(経済学的には所得が多くなるか)ということですが,前回お話ししたように,年金などの負担が上昇し,経済成長が期待できなくなると,当然のように効用は減少します。

 次に,出生の費用です。行政府では教育費の負担が大きく,それを下げようとする施策が検討されているようです。しかし,下図を見れば分かるように,教育費も仕送りも1990年代がピークになっています。何だか,増加しているのはスマホ代をはじめとした交通・通信費なのは皮肉ですね。これを必需財だとして値下げさせようとしているんですから困ったものです。当然,仕送り減小→バイト増加→勉強しないという悪循環が発生していますので,経済成長なんて見込めません。


出所)総務省統計局『家計調査』

図注)1970年の支出額を100として指数化している。

ここでは実質化していないが、実質化するとこれ以上に教育費が上がっていないことが分かります。
 
 また,ここでも内生性の問題があります。教育費は投資です。子孫の将来所得を上げるための投資なので,その投資のフルーツである生産性が上がらない限り教育費は無駄になります。教育投資や将来所得は内生変数なんです。しかも,教育に対して補助金を与えるのは以前からお話ししているように私は反対しています。大学の教員なのにと思われるかもしれませんが,教育に対する補助金は資源配分を大きく歪めていると感じているからです。これは追ってどこかでお話ししますが,少なくとも現在のいわゆる文系大学の教育は将来所得を高めると思いません。また,情報の非対称性もありますが,日本では(特に文系),小さい頃の教育が重要だという妙な情報が流れており、その結果,小学校,中学校の頃に多額の教育投資を行い,大学になると勉強時間も小学生以下ですし,大学院進学率も年々低下しています。生産性を高めるのは大学の教育だと思っているんですが・・・・。なお,教育の経済も私の専門ではありません。これも『学力の経済学』をはじめとする中室牧子慶應義塾大学教授の研究が優れていますので,興味のある方は中室教授の著書をご覧ください。

 さて,話を戻すと,出産の費用は金銭的な費用より出産,育児にかかる機会費用が大きいと考えられます。出産,育児の機会費用は出産,育児を行う期間に失われた所得になります。単に,産休制度を充実するだけではなく,出産,育児期間に昇格する機会がなくなることも機会費用です。出産世代の生産性が増えると機会費用も増えていますので,前述の効用である,次世代の経済成長がより必要になります。ここでも内生性が問題になりますね。さて,この機会費用は,出産,育児期間に夫婦どちらも離職した場合にどの程度生涯所得が低下するかということが大きいと思います。
少子化の不動産市場に対する影響を見る前に結婚に関してもう少し詳しくみていきましょう。最近の若者は恋愛志向が少なく,それが結婚率を下げているという意見もみられますが,下図をみると,結婚率から推定する恋愛比率は落ちていません。2015年以降は恋愛結婚にネットが入ったので,低下していますが,最近の人が恋愛嫌いではないことがわかります。要するに,見合い結婚が減ったのです。

 日本の研究でも見合い結婚の方が離婚率は低いこと,米国の研究でも有料紹介サイトで結婚した方が離婚率は低いことが分かっています。ということは,日本でも優良なマッチングアプリが普及すれば社会的にも効用が高まると思います。現在の出会い系サイトではなく,パレート最適(どこかでお話しします)を如何に早く達成させるかというマッチング理論を使ったマッチングアプリが本当に望まれます。そのようなことができない人はお節介に見合いを復活させましょう。

出所)国立社会保障・人口問題研究所『出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)』

 さて,この後に不動産市場と少子化の問題を扱おうと思っていたんですが,疲れましたので,次回にして今回はお節介なお話しで終わりにします。



浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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