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経済波及効果はもう良いよ ー生産性を上げるってどんな施策?ー


経済学から見た不動産市場(第53回)

浅田義久
日本大学経済学部教授

 

 2年前にコラムで経済効果について説明しましたが、いまだに新聞等で経済(波及)効果ってよく見ますので再検討します。

 今年になって、WBC(3月)の経済効果が600億円、バスケットワールドカップ(8~9月)の経済効果は沖縄県内だけで63億円、ラグビーワールドカップ2023はまだ計算されていませんが、日本開催の2019年は6,464億円、大谷さんの経済効果が450億円、藤井聡太さんの経済効果は1年で35億円だそうです。2023年のインバウンド需要も5.9兆円だそうなので、経済効果はこの2~3倍でしょう。妙なところでは、2023年京都祇園祭りが168億円でバスケットワールドカップより大きいみたいですね。日本の2022年度名目GDPが563兆円ですから・・・

 2年前のコラムでお話ししたように、経済波及効果は大体が産業連関表を用いて計算しています。例えば、バスケットワールドカップであれば来場者や応援する人々が、その期間中にどのような消費をしたのか(宿泊や交通、消費すべて)を試算します。そして、その消費財を製造するのに原材料等がどの程度必要かを、産業連関表で計算していきます。産業連関表では、飲食店で1,000円を消費した場合、どのような業種から中間投入されているかが分かります。すると、牛肉が200円投入されているとして、次に牛肉200円が生産されるためには、何が投入されているかを計算します。これらを順次計算し、飲食店の生産額1,000円によってどのような産業に波及しているかが分かるようになります。何度かやると気づきますが、どのような産業への最終需要増加でも産業連関分析で経済波及効果を求めると、大体同じような値になってしまいます。

 さて、これは以前のコラムで書いたように、バスケットワールドカップに来なければ行っただろう消費が減少したことを考えていません。これを経済効果って言わないと思いますが、如何でしょう。
 後述のインフラの経済効果には、建設部門分析用産業連関表を用いていました。これはなぜか分かりませんが、2011年が最終になっています。これは、建設物の種類や道路種別など、様々な建設部門で簡単に乗数までも分かりますが、そんなに差異はありません。ただし、投入業種が違うことは分かります。

 このような産業連関分析による分析は、道路や鉄道・橋といった交通インフラでも用いられます。また、交通インフラの経済効果としてそのインフラが整備された場合、その道路の沿線に商店ができて、町が活性化するなんていうことまで経済効果に含まれていることが多くあります。私もシンクタンク時代に、このような効果も含んで公表していました。これは反省しないと。実際には時間短縮効果のみを経済効果とすべきなんです。なぜなら、これは上記のイベントの経済効果と同じで、新規のお店は他の地域から移転した可能性があるからです。今まで、A地点-B地点-C地点と道路が通っていたとします。ここで、A地点-C地点に直通の道路ができたときを考えましょう。この時、確かにその道路の沿線には商店街ができるかもしれません。しかし、旧道は交通量が減って商店は減少しているでしょう。これは経済波及効果のところでお話しした、他の観光をやめてバスケットワールドカップを見に行ったときと同じです。理論的にはA地点-C地点の交通に要する時間短縮効果だけ、計算すれば良いのです。
 ただし、都市経済学観点からは、より詳細な検討が必要です。都市には集積の経済があります。もし、このA地点-C地点の道路ができたときに、A地点の就業者が増えた場合、集積の経済があればA地点の生産性が上昇しますし、A地点-C地点間の取引が上昇すれば、両地点での生産性が上昇します。近年は、これをワイダーインパクト効果といいます。特に集積の経済が大きい都市部では、この効果は非常に大きいと思われます。

 要するに、経済効果は生産性が向上するかどうかを検討する必要があります。前述のバスケットワールドカップの例では、それによって沖縄県の観光や交通・産業の生産性が上昇したかが重要です。一時的な減税や金融政策によって、短期的な景気は変えることができるでしょうが、国の生産性を高める施策は他にあると思いますが、如何でしょうか。
大学の授業もようやく本来の姿に戻ってきましたが、問題にされているのは、現在の大学生のほとんどがオンライン授業によって、教育水準が落ちているという危惧です。ところが反面、高校時代のPC使用率は上がっているはずです。以前、コラムでお話ししたように、高校生のPC使用率はOECDの中で最低で、この高校生のPC使用率と経済成長率に関係があるので、これによって正の効果があるかもしれません。

 どちらにしろ、生産性を上げる施策は何かを考えないと。民間シンクタンク時代に“けいざいはきゅうこうか”って打ったら経済は急降下って誤変換されて困りましたが、生産性上昇が重要なんですよ。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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