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無料化ももう良いよーフリーランチはお腹いっぱいー

経済学から見た不動産市場(第54回)


浅田義久
日本大学経済学部教授


 不動産のことを書きたかったんですが,まあ師走ですから,教育関連で皆さんの生活に関することで。

 東京都は都内在住のすべての世帯に対して私立高校の授業料を2024年度以降,実質無償化するそうです。これに対抗してか,政府は3人以上の子どもがいる多子世帯において、大学(短期大学、高等専門学校など含む)授業料を無償化する方針だそうです。これは少子化対策と言っているようですが,以前お話ししたように少子化対策は金銭的補助より育休制度等の充実の方が効果はあるんですが・・


 まず,公平性の問題ですが,これはよく言われている話で,これは大学や高校に入学する子どもがいる家計へ,他の世帯からの所得移転ですが,この補助金が誰に帰着するかは教育の需要曲線,供給曲線の価格弾力性によります。しかし,需要の価格弾力性が小さいと考えられるので,おそらく我々教育サービス供給者に多く帰着すると思います。
経済学的には資源配分(人的資源をどのような分野に投入するか)の問題が大きくなります。
例えば,TVの視聴率を考えましょう。地上波TVは大体が無料です。では,その時の視聴者のコストは0かというと,違います。経済学では機会費用と言いますが,TVを見ることによって失われた収入を機会費用と言います。例えば,昼のTVを社会人が見るためには休暇を取る必要があるので,機会費用は高くなります。そのため,よほど効用が高い放送しか視聴率はとれません。逆に夜だと,従来は機会費用が低くて,ある程度視聴率が取れたんでしょうが,最近はネットも面白いし,ゲームもあるので,これらによって夜の機会費用が上がっています。その影響でTVをみる人がいなくなったんでしょうね。そのため,以前と同じ質(面白さ)の番組を放送しても視聴率が取れなくなってしまいます。しかも,機会費用が低く,しかも分かっていない場合(ようするに無料=フリー)はその番組の消費者余剰(どの程度社会に寄与しているかって感じですかね)も分かりません。ところが,有料だとすると少なくともその料金より機会費用が高い人は見ないので消費者余剰はわかります。TVといえば,以前は放送に莫大な固定費用が必要で,自然独占にならないように規制が強化されていましたが,最近はスマホで簡単に撮影できて,編集,配信も簡単にできるようになりましたから,マスメディアも競争に巻き込まれて大変ですね。


 教育に話を戻すと,高校や大学の機会費用って何でしょうか。学生にもしつこくお話ししていますが,大学の費用は授業料ではなく,大学に行かなかった場合に得られる収入です。労働政策研究・研修機構が2017年に報告した正社員男性の生涯賃金を比べると,高卒の大企業従業者(従業員1,000人以上)の生涯所得は307百万円です。大学・大学院卒の大企業従業者では374百万円ですが,中小企業従業者(100~999人)では,302百万円なので高卒大企業従業者より低くなってしまいます。文系大学卒業者の大企業就職率は40%前後ですから日本では大学へ行く利益はそれほど大きくありません。現状でも,これらの情報を受験生や保護者の方々が知らないという情報の非対称性からか,本来,高校や大学で学ぶより,高校や大学で学べない技術を社会で習得したほうが、将来収益を上げる人まで高校や大学に来ています。東京都や政府が行っている補助は,金銭的費用である授業料がより低くなり,一層資源配分を歪めます。高校や大学の授業料を補助するのであれば,高校や大学で学べない技術を社会で習得したほうが、将来収益を上げる人にも何らかの補助を上げるべきではないでしょうか。


 何だか先日TVのニュースを見ていたら,配送料タダって表示は問題があるってまともなことを言っていたのに,その後の話題で温泉の無料サービスを褒めたたえていました。どっちなんだいって突っ込みを入れてしまいました。日本では,「ただほど高い物はない」と言われており,私も慎重に判断するようにしていますが,酔ってくるとただ酒は・・。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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