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国民負担って? 私の消費は私が決めたい

経済学から見た不動産市場(第57回)


浅田義久
日本大学経済学部特任教授

 災害の最終稿を書いていましたが,報道等でやや経済学的におかしい喧伝されているので,先にそれを正しておきます。ややおかしい話はもう一つあるのですが,今回は国民負担を説明しています。ああ,上記のように65歳を過ぎたので特任教授になってしまいました。
 どうやら,少子化対策として拡充する児童手当などの財源として医療保険料を充てるらしい。その結果,国民負担率が上昇するから実質増税だと批判されているようです。ここで,国民負担率は租税負担と社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の国民所得に対する比率です。そして,財政赤字を含む国民負担率を潜在的 国民負担率と言っています。後述のように,この定義自体怪しいのですが,まず国民負担率の推移をみていきましょう。

 図 1は国民負担率を租税負担と社会保障負担にわけて推移をみたものです。簡単に分かるように,1990年までは租税負担が増えていたのですが,それ以降抑制され(減税とデフレの影響です),2014年から若干増加傾向にあります。対して,社会保障負担は一貫して増加傾向にあり,2022年度にやや減少しています。社会保障の給付(年金,医療,福祉その他)には国や自治体から公費が投入されていますが,これらは租税負担に参入されます。


図 1 国民負担率の推移(国民所得に占める割合,%)

出所)財務省データ

 このような国民負担率は経済成長へどのような影響を与えるのでしょうか。図 2はOECD(国民負担率を開示している36国)の国民負担率と経済成長率をプロットしたものです。右下がりの傾向がみられ,国民負担率が高いと経済成長が低いとみることもできます。ただ,これは近年15年分であり,各国の固定効果や因果関係(経済成長が低いから負担率が高まる)を無視しているため,ちゃんとした実証分析を行う必要があります。寡聞にして探すことができません。


図 2 国民負担率と経済成長率

出所)OECD“National Accounts”
図注)経済成長率は2005年から2020年の伸び率

  

 ただし,小林・中田(2016)『社会保険料負担は企業の投資を抑制したか?』(独立行政法人経済産業研究所)によると個別企業の個票を用いて推定した結果,社会保険料負担によって企業設備投資を有意に下げていることを明らかにしています。ご存じのように2022年10月から社会保険の加入要件が厳しくなり,社会保険の適用拡大が実施されています。これから考えると設備投資への効果は大きくなっていると考えられます。


 さて,最初に提起した違和感ですが,これらは社会保障費が国民負担として,あたかも政府が国民に負担をかけているように思われがちですが,実際は社会保障の給付に回されているので所得移転と同じです。要するに,国民から用途を決めたコストを集めているだけですよね。今回の場合は児童手当などってことです。マスコミ等でも言われていますが,租税率を上げるときは国会で審査されますが,保険料率は簡単に上げられるってことですが,審議はしているので抑制は可能でしょう。


 それより,年金にしろ医療にしろ,なぜ消費者にコストを意識させないのでしょうか。以前のコラム(無料化ももう良いよ)で書いたようにフリーランチはありません。コストを意識させないとモラルハザードに陥ります。私は自分で決めたいけどね。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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