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地域間都市移動と都市規模とは 都市経済学的視点をいれましょう

経済学から見た不動産市場(第58回)


浅田義久
日本大学経済学部特任教授

 4月24日に,増田寛也氏など民間有識者で構成する「人口戦略会議」が『人口ビジョン2100』を報告し,そのなかで,全国1,718自治体を「消滅可能都市(744自治体)」,「ブラックホール型(同25)」,「自立持続可能性(同65)」,「その他(895)」に分類し,少子化対策の必要性を訴えました。増田氏は2014年にも日本創世会議・人口問題検討分科会で「ストップ少子化・地方元気戦略」と題する提言を発表し,「全国約1800の自治体のうち,ほぼ半数の市区町村が2040年までに消滅の可能性に直面する」と試算し,話題となりました。自治体の数自体は,平成の大合併によって昭和60年度に3,253あった市町村は令和5年度末には1,718まで減少しています。市町村数と人口変動は関係ないのですが,地域別の人口の変動と都市規模には大きな問題があります。
 まず,地域別の人口変動をみていきましょう。『人口ビジョン2100』は国立社会保障・人口問題研究所(以下,社人研,https://www.ipss.go.jp/index.asp)の『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』を用いています。この地域別将来推計で入手可能で最も古いものが2000年の国勢調査をもとに行い、2003年12月に公表されたものです。この時は2030年までの市区町村別人口予測が行われています。その時予測された2020年と2020年の国勢調査で比べてみましょう。当時予測された全国の人口は124,407千人で実際には126,146千人ですので若干増えていると言うことになります。ただ,地域別にみると違いが明確に出てきます。図 1の赤っぽい地域は実際の人口が小さく,青っぽい地域は予測より人口が多くなった地域です。北海道や私の出身地の石川県でも青の地域が多く予想より人口が減少しなかった地域がありますが,だいたい東京圏や大阪圏では過小予測していたことが分かります。

図 1  2000年予測人口と2020年実際人口の乖離

出所)総務省統計局『国勢調査』,社人研『日本の地域別将来推計人口(平成15(2003)年推計)』
図注)乖離率=(実際/予測-1)として計算している。

 では,予測時点2005年から2020年に各自治体の人口増減はどうなっていたかをみてみましょう。実際は後述のように一定の地域で人口増加がみられ,東京圏や大阪圏が顕著なため,“一極集中”といわれているのだと思います。この各地域にある人口増加都市を検討することが肝要です。


図 2  2000年から2025年にかけての地域別人口増減

出所)総務省統計局『国勢調査』 ​​​​​​​

 最後に,今回の2050年までの予測をみておきましょう(図 3参照)。ここでは,『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』で出されている,2020年を100とした指数で示しています。どうも,日本海側や四国などで人口減少を予測していますが,図 1でみたように,これらの地域は2000年から2020年までの予測でも減少幅を小さく予測しており,実際にはより減少している地域です。また,後述の地域別の中核都市の成長も予測していません。


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図 3  2020年から2050年地域別予測

出所)『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』

  人々が集積することで生産性や効用(人々の満足)が増加するという“集積の経済”がどのように発揮されるかを反映できなかったと考えられますが,この“集積の経済”は周辺地域に漏出しますし(例えば,水道橋にはカレー店の集積が顕著ですが,周辺の飯田橋では少なくなります),年齢によって受ける“集積の経済”,移動費用が異なっていますので地域別の人口変動を分析するのは非常に難しくなります。
 例えば,図 4は以前にもコラムで紹介した政令指定都市の人口変動をみたものですが,同じ県にある政令指定都市でも浜松市の人口は増え,静岡市の人口は減っています。同様の傾向は福岡市と北九州市でも起きています。これらは“集積の経済”が県別に一つしか発揮しなかったと考えられます。

図 4  政令指定都市の人口成長率(1995年から2023)​​​​​​​​​​​​​​

出所)総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告』
図注)各市区とも2016年の市区域に合わせて統合した市区町村を合計している.

 私の出身地の石川県の人口転入超過をみたものが図 5です。興味深いことに石川県内でも金沢市一極集中となっていますが,金沢市から近隣の白山市,野々市市へ転出超になっています(これは通勤圏の拡大です)。そして,この金沢都市圏(金沢市へ通勤する地域)へは隣県の富山県からも転入しています。これは,中核都市人口集中と郊外化が起こっている典型例です。ついでにタスの研究員の出身県である富山県をみていきましょう(図 6参照)。

図 5  石川県内市の人口転入超過数

出所)総務省『令和2年国勢調査』表5より集計
図注)棒グラフ上の数値は合計人口転入超過数.

 富山県も非常に興味深い人口の移動が出ています。図からわかるように,富山市一極集中が進み,第2都市である高岡市はどんどん転出しており,転出先は富山市,金沢市,東京などとなっています。もう少し年齢別に分析すると面白いかもしれませんが,1県には1つの中心都市しか成長しない例になっています。 ​​​​​​​

図 6  富山県内市の人口転入超過数

 さて,もう一つ都市圏の問題があります。都市経済学では都市圏を検討する場合は都市雇用圏(Urban Employment Area)で検討しています。特に,都市化の分析を行う場合は中心都市の人口集中地区(DID[1])が5万人以上の大都市雇用圏(Metropolitan Employment Area, MEA)で分析を行います。これは一定以上の人口があることなどが条件で,その都市へ常住人口の10%以上が通勤している地区を郊外市町村としてその雇用圏に含めます。すると,横浜市,川崎市,厚木市,さいたま市,千葉市などは東京都市圏に含まれてしまいます。表 1は都市雇用圏人口の推移をみたものです。東京都市圏は1980年から2015年にかけて31.6%増加していますが,大阪都市圏以外の10位以内の都市圏も東京都市圏と同様の伸び率を示しています。また,浜松都市圏や熊本都市圏,新潟都市圏,那覇都市圏,高松都市圏など地方の都市圏も高い伸び率を示しています。

[1] 総務省統計局が国勢調査をもとに設定しています.その基準は,国勢調査基本単位区及び基本単位区内に複数の調査区がある場合は調査区を基礎単位として,①原則として人口密度が1平方キロメートル当たり4,000人以上の基本単位区等が市区町村の境域内で互いに隣接し,②それらの隣接した地域の人口が国勢調査時に5,000人以上を有するこの地域です.


表 1 都市雇用圏人口の推移

表注)2010年と2015年に順位変動はありません。2000年以前の()内は順位.なお,前橋都市圏や宇都宮都市圏,岡山都市圏などは都市圏の範囲が大幅に変わっているので比較が難しくなっています。また、2020年はまだ集計されていません。



 都市経済学で考えると人々は地域の生産性(賃金)を考慮して移動費用を勘案してどの都市雇用圏で働くかを決定します(移動費用が高いととどまることになります)。そして,次に住む自治体を決めます。ここで,自治体は各々ある程度自由に地方公共サービスを提供し,競争することになります。例えば,保育サービスや,学童サービス,児童介護サービスなどが自治体ごとに供給レベルが異なっているため,人々が移動していることが明らかになっています。これを“足による投票”といいます。保育サービスの供給増を自治体に要請している間に子どもが大きくなりますので,充実している地域に“孟母三遷”するということです。
 その自治体の地方公共サービスを決めるのは自治体ですが,日本では地方分権の促進のために,広域自治体(道府県)から基礎自治体(市町村)へ事務権限を委譲する大都市制度があり,自治体による地方公共サービス供給を決める自治体レベルが異なっています。表 2が各自治体の業務範囲です。

表 2 指定都市・中核市・施行時特例都市の主な業務指定

出所)総務省資料
表注)2020年国勢調査によると人口50万人以上の市は28市(東京特別区含む),20万人以上50万人未満の市は82市ある.

 

 非常に難しいのは,地方公共サービスによってサービスの最適供給範囲が違うということです。コロナ渦で保健業務を任される中核都市になりたいといった市長がいらっしゃいましたが,その際は他の業務も託されてしまいます。
 図 7は縦軸に1人あたりの土木費,衛生費,横軸は人口をとったものです。平均費用をみたものになりますので,低い方が良いことになり,人口規模が大きくなると平均費用が低下(効率的)しますが,ある規模になると平均費用が上昇(非効率的)になります。最適な都市規模は土木費と衛生費で違うことが分かります。

図 7  市町村の目的別費目と人口規模(対数)

出所)総務省(2021)『令和2年度市町村別決算状況調』,総務省(2021)『令和2年10月住民基本台業に基づく人口』
図注)避難地域で人口が記載されていない町村は除いている.

 

 なお,図 7で赤い点は今回の能登半島地震の被災地域です。かなり人口規模が小さいところかと思っていましたが,それ以上に小さい規模の自治体が多いことが分かります。これらの地域では公務員の数が200人に満たない自治体が3町ありますが,規模を大きくして規模の経済が発揮できる自治体にすることが望ましいと思います。消滅する都市の分析より,人口減少が予想される中で,より効率的な自治体規模にするための令和の大合併を理論的な検討で行うことが必要です。
 上記が都市経済学的にみた人口移動と都市圏域の検討です。集積の経済に焦点を当てて分析すべきですね。ただ,「経済学者は要因分析にとどまるべきで,予測はしていけない。」と昔の経済学の泰斗からいわれていたので,社人研のような予測はできません。若手の研究者もこのような研究分析を行っても,業績にもなりませんのでやらないでしょう。私は既に,定年だしやって良いかな。みなさん(タスの方も含めて),理論的な人口予測の需要はありますかね。

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浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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