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鉄道と都市 鉄ちゃん,歴爺になりたい?


経済学からみた不動産市場(第62回)

浅田義久

日本大学経済学部特任教授

 私は中央線沿線に住んでいますが,最近ホームのアナウンスが気になっています。中央線では2025年にグリーン車が有料で提供されますが,24年9月から徐々に無料でお試しサービスが始まっています。ところが,「グリーン車付近は混雑しますので,他の車両をお使い下さい」ってアナウンスが流されています。えっ!!混雑緩和のためのグリーン車導入だったんでは。グリーン車は2階建てになっていて,1階,2階から階段で出口に行くようになっていますが,その階段に学生が座り込んでいてなかなか出ることもできません。本番までになんとかなるんでしょうね。もし,幸いに混雑緩和したり,2両増えたことで輸送力が増えることになったりした場合,中央線沿線の地代や地価がどのように変化するか面白いですね。最近では2019年11月に西谷駅 - 羽沢横浜国大駅間が開業し、相鉄本線とJR東日本湘南新宿ライン・埼京線・川越線との間で直通運転が開始され,2023年には日吉駅~新横浜駅を結ぶ、東急新横浜線が開業されました。これが地代や地価にどのように影響するかはタスの研究員がやっていますね。この乗り入れ型の直通運転は延伸された新横浜以遠では人々の利便性を上げますが,それより都心部の人たちの利便性は上げません。それより,事故の確率が高くなり,遅延が増えるはずです。JRでは上野東京ラインが宇都宮線との乗り入れを一部取りやめています。これは採算の問題のようです。地下鉄日比谷線は東横線と直通運転していましたが,2013年に廃止しています。ただし,副都心線と直通線を始めています。これは駅の構造が原因と言われています。今年の1月に突然JR東日本が京葉線の通勤快速を廃止すると発表し,結局廃止の見直しになって話題になりましたよね。快速や急行と言った停車駅が少ない車両が果たして,混雑緩和になるかはsensitiveな問題です。2017年に東急田園都市線ではラッシュ時の急行は廃止していますし,2018年に小田急の準急で停車駅が増えています。中央線に住んでいると分かりますが,特快を待っている時間を考えるとグリーン車などの導入で総運行客数が減る可能性があります。

 当然,沿線の利便性が変わり,地代や地価に影響を与えるので,住民には資産価値に関わる問題ですね。この点もタスの研究員の皆さん実証分析してみてください。

 さて,もっと根幹で鉄道と通勤圏の問題があります。図 1は1都3県の市区町村別東京23区通勤比率と鉄道路線を示したものです。やはり,鉄道路線が敷設されている地域で23区通勤比率が高くなっていることが分かります。


図1 1都3県の23区通勤比率と鉄道路線

(出所)総務省統計局『令和2年国勢調査』

 ただ,これは因果関係を考察するのが難しいんですね。単に,ヘドニック分析で各駅の都心への通勤時間や便数を入れれば良いのですが,通勤時間や便数は内生性があります。ようするに需要が多いところに便数が増え,快速を止めるということです。すると,鉄道敷設の歴史も考慮に入れる必要が出てきます。大宮ってなんで5つの新幹線に加え,JR京浜東北線・JR埼京線・JR高崎線・JR宇都宮線・JR上野東京ライン・JR湘南新宿ライン・JR川越線・東武野田線・埼玉新都市交通伊奈線が通っているかご存じですか?金沢駅が市街地から遠いのも。それと,京都駅に私鉄が入ってきていない理由は?街作りだと,都心の大型開発地は江戸時代の藩邸跡であることや,町田に金融機関が多いことも歴史ですよね。

 あっ,私は鉄ちゃんでも歴爺でもありません。これらは,ブラタモリとタモリ倶楽部のネタです。じゅん散歩のじゅんさんとタモリさんのような高齢者を目指しています。

 さて,運賃は現在でも変更可能です。そして,運賃によって都市圏も変わります。

 図 2は地下鉄等の運賃ですが,古い東京メトロが非常に安価で,新しい東葉高速線などは高いことが分かります。


図2 鉄道,地下鉄等の運賃

(出所)各営業期間HP

 なぜ,古い路線が低く,新しい路線が高いかは前回の公共財の供給と同じく課金方法に原因があります。日本では,多くの鉄道が総括原価主義をとっています。これは,いわゆる平均費用課金で,鉄道のように莫大な投資が必要な場合に,限界費用課金では無く,赤字が出ない平均費用課金にしています。すると,初期投資の償却費も運賃で賄うことになります。そのため,償却費が大きい,新しい路線の運賃が高くなってしまいます。この平均費用課金は限界費用課金より高くなり,利用者数も過少になってしまいます。そして,通勤圏域も最適圏域より狭くなってしまいます。


 では,最適な鉄道料金はどのようなものかというと,前回の公共財供給でもお話ししたように,利便性の向上は地価の上昇をもたらすので,その上昇分を固定資産税で徴収し,それで固定費を賄い,費用は限界費用課金で賄うのが最適な供給方法です。私鉄沿線で私鉄が宅地開発を行っているのは同じ原理です。ただ,固定資産税を変更するのは無理でしょうね。103万円の壁の変更もなかなか穴が空かないようですが,あれって消費税の非課税と0%課税と同じように解消できるんですが,これも住宅では重要なのでどこかでやりましょうかね。

 そうそう,中央線のグリーン車はQRコードを入手する必要があります。高齢者には厳しい社会です。

浅田 義久
浅田 義久
日本大学 経済学部 教授 [経歴]上智大学大学院経済学研究科博士前期課程修了 三菱総合研究所、明海大学等を経て、現職 [専門]経済政策、財政・公共経済
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