東京都賃貸住宅市場の供給過剰は、6.5万戸超に拡大
藤井和之
株式会社タス
2020年暦年では、東京都の賃貸住宅市場は54,000戸超の供給過剰でした。ただしこれは、新型コロナウイルスの影響がほとんど見られなかった2020年1月~3月を含んだ数字です。
そこで今回は、2020年度(2020年4月~2021年3月)の東京都賃貸住宅市場にコロナ禍が及ぼした影響について分析します。
東京都全体の動き
まず全体像からみていきましょう。図1に東京都(郡部、島部除く)の2019年度と2020年度の月次人口増減の比較を示します。
2019年度は人口が+98,503人だったのに対し、2020年度は▲24,655人となりました。例年であれば3月と4月に入学や入社で大量の人口流入があり、これが東京都の人口増加の7割近くを占めます。
ところが、第1回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月は前年度(2019年4月)の56%、第2回目の緊急事態宣言の解除がずれ込んだ2021年3月は前年度(2020年3月)の50%しか流入がありませんでした。また、例年であれば異動等で人口が流入する9月と10月については、2020年度は逆に人口が流出しています。
世帯数(図2)についても同様の傾向がありますが、2020年4月は前年度の64%、2021年3月は前年度の86%にとどまっています。2019年度は世帯数が+97,322世帯だったのに対し、2020年度は+31,723世帯と、前年度の3分の1弱となりました。
図1 人口:東京都の2019年度と2020年度の月次増減比較(郡部、島部除く)
図2 世帯数:東京都の2019年度と2020年度の月次増減比較(郡部、島部除く)
東京23区と市部の動き
これらの動きを東京23区と東京市部に分けてみるとある特徴が見えてきます。
東京23区の人口増減は、2019年度が+84,960人だったのに対し、2020年度は▲30,171と東京都全体よりも減少幅が大きくなっています。東京市部の人口増減は、前年度に比較して増加幅が減少しているものの、2020年度は+5,516人と、流入超過を維持しています。月次推移についても、東京23区(図3)が前年度と大きく異なる傾向であったのに対し、東京市部(図4)の傾向は前年と概ね同じであることがわかります。
図3 人口:東京23区の2019年度と2020年度の月次増減比較
図4 人口:東京市部の2019年度と2020年度の月次増減比較
世帯数は、東京23区の前年度は+74,423世帯であったのに対し2020年度は+10,084世帯と大きく減少しました。東京市部では前年度の+22,899世帯に対し2020年度は+21,639世帯と同水準でした。月次推移についても、東京23区(図5)が前年度よりも大きく減少しているのに対し、東京市部(図6)は第1回目の緊急事態宣言期間中の減少分を年度後半に回復していることが判ります。
このように、新型コロナウイルスによる東京都の人口動態への影響は、東京23区に偏っていたことがわかります。世帯数の増減は住宅市場の需要の増減に影響を及ぼしますので、2020年度の東京23区の住宅需要は前年度の7分の1以下まで落ち込んだと考えられます。
図5 世帯数:東京23区の2019年度と2020年度の月次増減比較
図6 世帯数:東京市部の2019年度と2020年度の月次増減比較
貸家着工数の動き
世帯数の減少に対して、東京都の貸家着工数(12カ月移動平均)は2019年後半から月5,500戸前後で推移(図7)しており、新型コロナウイルスの影響は見られません。リーマンショック後にも世帯数の増加幅が3年ほど時間をかけて大きく減少しました。その際は世帯数の減少に併せて供給調整も行われましたが、コロナ禍においては、今のところ供給調整が行われる様子はありません。
図7 東京都の貸家着工数推移(12カ月移動平均)
世帯数と着工数の比較
では、世帯数増減の推移(12カ月移動平均)と貸家着工数の推移(12カ月移動平均)を東京23区と東京市部でそれぞれ比較してみましょう。なお、東京都の貸家着工数の8割が東京23区であるとして作成しています。
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