設備の評価手法 ~ヘドニック法を用いた設備評価の紹介~
石井健太朗
株式会社タス データソリューション部
不動産設備の評価手法には,「原価法」や「仮想市場法」などが挙げられますが,そのうちの1つに「ヘドニック法」を用いた手法もあります。この記事では,ヘドニック法を用いた設備評価について紹介したいと思います。
はじめに
ヘドニック法を用いた設備の評価を一言で言うと…
不動産データから設備の有無がどの程度住宅価格や賃料に違いをもたらしているのかを観測し,その価格差から設備価値の計測を行う手法であるといえます。つまり,「その設備(たとえばオートロック)があることで,どれだけ不動産価格が変化するのか」について,ビックデータと統計的手法を用いて導き出し,その変化分を設備の価値とするものです。
不動産の価格や賃料が決められる要因は,築年数や家の広さ・駅からの近さなどに加え,「設備」もその内の1つになります。実際に部屋を借りるとなった場合に,オートロックや追焚機能・コンロの数なども部屋を選ぶポイントになるのではないでしょうか?
このようにいくつもの要因が絡み合って不動産価格は決定されますが,ヘドニック法を使うと「特定の要因のみが不動産価格に与える影響」を見ることができます。つまり,エアコンや床暖房など,それぞれの設備のみに注目して評価することができることになります。
この手法では,実際に不動産市場に出ているデータを用いて価値を算出するため,設備流行などの市場性を反映させた評価になります。また,観測可能なデータを用いて評価することから恣意性が入りづらく,客観性が高い評価方法といえます。
具体例
ここからは,例を用いて算出方法を紹介していきます。
この手法での設備評価の算出には回帰分析を用います。
実際に設備評価を行うためには,住宅価格や賃料から,築年数など設備以外の要因による価格への影響を取り除く必要があるため,モデルには評価したい設備項目だけでなく,他の観測可能な住宅特徴を含める必要があります。
簡単な例を用いて説明したいと思います。
今,賃貸物件においてエアコン設備の評価を行いたいとします。その際のモデルは,
賃料 = α + βエアコンダミー + γ築年数 + δ専有面積 + ε
となります。
エアコンダミーとは,エアコンが設置されていれば1,されていなければ0になるダミー(二値)変数です。
このモデルにおいて賃料は,エアコンの有無と築年数・専有面積から決められると解釈でき,これを回帰分析によって推定することで「 β , γ , δ 」を求めることができます。(実際の推定にはもっと多くの変数を用います)
推定されたエアコンダミーの係数βは,エアコン設備がある住宅と設備がない住宅の家賃差(通常は,正)になります。つまり,βはエアコン設備の有無が賃料に与える平均的な影響の差であり,この差をエアコン設備の評価とする考え方になります。
このように,ヘドニック法を用いた設備の評価では,関心のある設備以外の要因を考慮した上での評価が可能になります。
結果とまとめ
下記のグラフは,東京23区内の賃貸住宅において推定した設備の価値になります。
グラフ内の数値は,当該設備がある物件と,ない物件とを比較し,賃料が何%増加するかを表しています。
例えば《トイレ・バス》内の浴室乾燥機をみると,値は4.12%となっていますが,これは浴室乾燥機がある物件はない物件に比べ,1ヶ月あたりの賃料が4.12%高いことになります。
また,推定したモデルに評価したい不動産の情報を外挿することで,家賃の予測が可能になり,そこから関心がある設備があった場合となかった場合の賃料を比較することができます。
例えば,RC造・所在地は新宿区・最寄り駅の沿線は山手線の物件があるとします。ここで,各属性と設備に平均値を外挿したケースで,床暖房を敷設した場合の価格差をシミュレーションしてみます。
その結果,床暖房がある物件の理論賃料は135,048円に対し,ない物件は122,600円となりました。つまり,床暖房は1ヶ月あたり賃料に12,448円の差を生むことが示されています。
この差が,RC造,新宿区,山手線沿線の物件における,ヘドニック法を用いた床暖房設備の評価となります。
しかし,注意点もあります。
ヘドニックの定義上この方法での設備の評価には,すべての借手の選好が同じという「消費者の同質性の仮定」が必要であり,この仮定が成り立たない場合には,算出した評価は過大評価される傾向にあるということに注意しなければなりません。
また,回帰分析を行う上では,住宅価格や賃料に影響を与える多くの変数をモデルに含めなければならず,変数同士が強く相関する多重共線性という問題を引き起こしてしまう可能性があります。
詳細な算出方法・注意点等は,石井・行武(2019)「ヘドニック法による設備の評価」『資産評価政策学19巻2号〈通巻38号〉(資産評価政策学会学会誌)』に記載しております。